創刊のことば

機構長井小萩 利明

機構長 井小萩 利明

国際高等研究教育機構は、おかげさまで3度目の春を迎えています。本機構は、世界をリードする若手研究者の養成を目的に、研究教育院と融合領域研究所からなる研究教育支援組織です。各研究科から選抜された優れた大学院生を、研究教育院の修士/博士研究教育院生として支援する制度も軌道に乗ってきました。皆さんの周りでも、研究教育院生が活躍していることと思います。融合領域研究所においても、グローバルCOE等と連携し、複眼的思考による融合領域研究を推進する特別研究員(助教)の研究活動が展開されています。これらの活動を通じて、21世紀の知識基盤社会で国際的に活躍できる若手研究人材を一人でも多く世界に送り出したいものと思っています。

現在、異分野融合の研究領域として5つの研究領域基盤が用意されています。研究教育院では、各基盤に共通の指定授業科目「融合領域研究合同講義」などに加えて、この4月からは、ディスティングイッシュトプロフェッサーによる「異分野クロスセッション」の講義も新たに始まりました。また、融合領域研究所では、兼任教員、シニア教員等による全学横断的な研究指導のもと、研究発表会や特別研究員等による各種セミナーなどが開催されています。

本機構では、このような研究教育活動の最新情報を全ての大学院生に伝え、高い関心を持ってもらいたいと思い、この度、研究科研究所横断的大学院情報誌として「東北大クロスオーバー」を創刊することになりました。本機構のみならず大学院教育に携わる各研究科、各附置研究所、さらに世界トップレベルの教育研究拠点であるグローバルCOE、原子分子材料科学高等研究機構(WPI‐AIMR)等における融合研究教育活動の動向を大学院生、教職員、そして学外に広く発信することを目指しています。

この大学院情報誌が、双方向性を発揮し、最新情報を共有する役割を担うためにも、皆さんからの寄稿をぜひお願いしたいと思います。

創刊のことば

大量絶滅時の地層(ペルム紀/三畳紀境界層)、岩手県で確認

理学研究科地学専攻高橋 聡

大量絶滅時の地層(ペルム紀/三畳紀境界層)、岩手県で確認

今から約2億5200万年前、ペルム紀と三畳紀という時代の間には、生物の9割が死滅したとも言われる大量絶滅事件が起きたことが知られていますが、その実態は大きな謎となっています。私たちの研究グループは、岩手県の北部北上山地で発見した地層がこのペルム紀末に起きた大量絶滅当時の地層であることを突き止めました。この地層は、国内外で報告されている遠洋域深海相のペルム紀/三畳紀境界層のなかでは最も連続性の保存がよいもののひとつで、地層が堆積したと考えられるパンサラッサ海遠洋域(今の太平洋の位置に相当)の大量絶滅時の環境変動を知る基礎資料として重要です。この地層(安家森セクションと命名)を細かく分析した結果、安家森セクションの地層には、ペルム紀の終わりに地層の中の有機炭素量(酸素が足りずに分解されなかった有機物)が増え、同時に放散虫(海のプランクトンの一種)の化石が減る様子が記録されていました。私たちはこれらを当時の海中の酸素が無くなり、海生生物が死滅したことを表していると考えています。私たちは、これからも地球生命史上最大の謎を解き明かすべく、国内外の地層を対象に多角的な研究を展開していく予定です。

永広昌之教授 総合学術博物館館長のお話

論文タイトル:
Hight organic carbon content and a decrease in radiolarians at the end of the Permian in a newly discovered continuous pelagic section:A coincidence?
雑誌名:
Palaeogeography,Palaeoclimatology, Palaeoecology, 271,1-12.

永広昌之教授 総合学術博物館館長のお話

Palaeo3に掲載された高橋さんを筆頭著者とする論文は、東北日本ではじめての深海相P/T境界層の報告であるとともに、これまで知られている深海相P/境界層の中で最も層序的連続性や年代データが完備した境界層における全有機炭素量と放散虫生産量の垂直変化を検討したものです。この論文は、ペルム紀末の珪質泥岩から黒色有機質泥岩への移り変わりの層準において海洋無酸素事変と放散虫の絶滅事変が同時に生じたこと、前期三畳紀後期に全有機炭素量の減少の開始(無酸素事変からの回復)があったが放散虫の生産の回復はそれよりも1千5百万年以上遅れたことを明らかにし、遠洋域の絶滅事変の詳細を知るための重要なデータを提供した点で高く評価されます。

なお、Palaeo3は、年間50〜60の掲載論文を有し、高いインパクトファクター(2.162)をもつ、古生物・古環境分野の著名な国際誌のひとつです。

▲このページの先頭へ