融合領域研究所特別研究員キャリアアップ

琉球大学准教授へ

国際高等融合領域研究所 矢野恵美
特別研究員(言語・人間・社会システム領域基盤)

国際高等融合領域研究所 矢野恵美

私が国際高等融合領域研究所(以下融合研)特別研究員として採用頂きましたのは2007年4月1日のことでした。学部から一貫して法学の世界、中でも刑事法の世界で過ごし、東北大学においても融合研採用前の3年間は法学研究科21世紀COE「男女共同参画社会の法と政策」の研究員として働いていました。

融合研に採用頂いてすぐに同僚の方々と研究内容をお互いに発表しあったのですが、これまで聞いたこともない内容の数々、特に、当時は他の方は全て理系の方々でしたので、果たしてここで自分に何ができるのかと非常に不安になったことを覚えています。

融合研では、2点のことを強く求められました。1つは自分の研究を「融合研究」という視点から構築すること。もう1つは自分とは専門が異なり、かつ自分の研究に興味のない方にもわかりやすいように自分の研究を紹介することです。

「融合研究」については、これまで意識したことがありませんでしたので、最初のうちは、自分なりに考えて発表しても、それは融合ではないと言われ、本当に途方に暮れました。音を上げそうになることもしばしばでした。しかし、皆様との議論を重ねるうちに、法学分野の「自分の価値観を表明する学問であり、1人での研究が基本」という状況自体が理系の方にとっては特異であり、単独研究から脱却するところから私の融合研究は構築していかなくてはいけないこともわかってきました。

わかりやすい説明に関しても、法学の報告では、例えば1コマ90分で報告と指導を受けるということも多く、長く話すことはできても、10分で基礎から話すことは絶対に無理だと思いました。法律の条文解釈がメインの分野ですので、パワーポイントでも文字が主体の拙いものでした。元々、少年院等でも講義をしていましたので、わかりやすく話すことには努めていたつもりだったのですが、専門外の方達だけに説明するというのはまた別の手法が必要でした。しかし、同僚や先生方から質問を受けることによって、専門外の方にとって、何が疑問点なのかを学ぶことができ、かえって自分の研究の「ツボ」を理解することができました。パワーポイントの技術も学ばせて頂きました。実は、この訓練が今回の就職の際にも活かされました。昨今では、就職選考の際に模擬授業を課されることがあり、私の時にも最終選考は模擬授業でした。パワーポイントを使って分かり易く話をするというのは、まさしく融合研で培われた技術であり、この訓練が大いに役立ったことは間違いありません。

4月から琉球大学のロー・スクールで勤務します。元々、私の研究分野は犯罪をした人の施設と社会での処遇や、被害者の権利や支援を考えるものです。現在の司法試験ではこのような内容は試験科目ではないため、ほとんど学ばれていないのが現状です。しかし、融合研での、他分野の方々の意見をうかがううち、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)になる人達には、私の研究分野の内容のみならず例えば医学等の基礎知識も必要だということがわかってきました。この点を踏まえて4月からは働いていきたいと思っています。又、この2年間の勤務の中で私なりの融合研究を追究し、昨年度より医学、心理学、社会学、経済学等の研究者とのチーム研究を開始しており、少年院や刑務所での調査も開始しています。融合研究には様々な知識が必要となるため、研究には時間がかかり、結果も見えにくいのが事実です。それでも融合研究の重要性と面白さを知った今、この研究を生涯続けていきたいと思っています。

初めは融合研究の意味も意義もわからず、ただただ不安な毎日でした。しかし融合研での2年間は私の研究者としての今後の人生に、かけがえのない影響を与えてくれました。様々な分野からコメントをくださった同僚の皆様、教員の皆様、精神的にも支えてくださった事務の皆様に心から感謝を申し上げたいと思っています。

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