大学院共通科目  誰でも受講できます!

研究科の壁を越えて自由に受講できる

大学院共通科目 「異分野クロスセッションⅠ、Ⅱ」 開設

ディスティングイッシュト・プロフェッサー全員による連続講義

異分野融合の合同講義の経験から

本学は、大学院教育の一層の高度化のために種々の取り組みや改革に取り組んできました。これまでも研究科や専攻の壁を越えて、異分野の学生が他分野の専門科目を受講しやすくする体制作りを進めてきました。そして、異分野融合という視点で平成19年10月から、井上総長を先頭に田中耕一客員教授をはじめ本学のトップリーダーたちによる「融合領域研究合同講義」が開講されました。この経験の上に、新しい試みとしてディスティングイッシュトプロフェッサー30人による「異分野クロスセッション」講義が今年度より開設されました。

30の異分野とクロスセッション

本講義では、ディスティングイッシュトプロフェッサーによる奥行きの深い30の異なる専門の、きわめて広範囲な異分野の話題を連続的に聴くことが出来ます。受講生はおそらく一生受講するチャンスのない異分野の講義にはじまり、自分の研究分野に近接する分野までそれぞれ最先端の講義を、連続で受講することが可能になります(ホームページ参照)。

本学の全大学院生に開かれた講義

本講義は、展開される異分野のクロスセッションから、横断的視野、横串的視野、学際的視点など多くを学び取ってもらい、21世紀にふさわしい視野と能力を醸成してもらうことを目指すものです。講義の開設部局が教育学研究科と理学研究科とになっていますが、どの研究科に所属する学生でも自由に受講することができます。また、機構の修士及び博士研究教育院生の応募とは関係なく受講できますので、本学の第一線で活躍する花形の講師陣の講義を堪能して下さい。

ディスティングイッシュトプロフェッサーは教育、研究、社会貢献などの分野で先導的な役割を担う教授で、各分野におけるトップレベルの卓越した専門知識に基づき極めて高い業績を挙げ、本学で育まれた「Challenge(挑戦)」、「Creation(創造)」、「Innovation(革新)」という3つのキーワードを基軸とした研究マインドを備えた人物(「東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサー2008」より)

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「異分野クロスセッションⅠ、Ⅱ」講義の抱負を語る

ディスティングイッシュトプロフェッサーによる「異分野クロスセッション講義」について、小谷元子教授、内田龍男教授のお二人に講義のねらいを語ってもらいました。

内田龍男教授「液晶の物理化学と電子工学」担当

内田龍男教授「液晶の物理化学と電子工学」担当

●くじに外れて

私がこの異分野クロスセッションの講義に関わることになった背景として、私自身の研究について少し話をさせていただきます。私が専門を決めた頃は、電気では電子工学が非常に花形でした。中でも半導体、トランジスタとか集積回路といった分野が花形でした。何とか競争の激しい電子工学科に進むことができて、卒業研究でも半導体の研究室に入り、学部を卒業しました。大学院でも同じ研究室に残りましたが、改めて研究テーマを選ぶ段になって、あみだくじに外れて、私1人が半導体の分野から離れて液晶の研究分野に飛び込むことになりました。

●化学の基礎勉強からはじめて

当時はまだ液晶関係の材料が全く手に入らず、自分で有機化学合成をしなければならないことになりました。電子工学に身を置きながら、スタート早々から化学系の講義を聴講して化学の基礎勉強から始めることになりました。今で言えばあれが異分野融合のスタートだったかなと思うわけですが、当時はそんな意識はまったくなくて訳の分からない化学を一生懸命勉強しました。1年ぐらいかけてようやく合成にこぎつけることができましたが、その純度は電子工学で必要な値と比較して著しく低いものでした。当時の有機化学としては常識的な純度でしたから、電子工学の要求は有機化学にとっては考えられないような超高純度だったわけです。結局、化学としても新しい分野に踏み込んでしまったような状況でした。その後何年かかけて、高純度化を達成したり、液晶分子を一様に配列させるために表面物理化学の研究を行ったりして、まさに泥まみれで苦闘を続けました。最終的には高性能の液晶ディスプレイやカラー液晶ディスプレイを考案・開発するなど、結果的にはいつの間にか液晶ディスプレイの最先端を走っていました。

●多くの失敗談を

上述のような液晶の研究をしてきたおかげで私自身は電子と言っても最初の十何年かは化学の方とつきあいが多いぐらいに化学的な仕事ばかりやってきました。そんなことがあったので異分野クロスセッションの講義については、専門的な話をするというよりむしろ私が経験した多くの失敗談を含め、失敗の中でどうやってもがきながら、そして異分野の中で新しいことにどうやって挑戦し、未踏の分野を少しずつでも進んできた、というような話をしたいと思っています。

●疑ってかかる

学生のみなさんにとっては、研究室である程度基盤が出来上がった分野で勉強や研究を行うのが普通ですので、バックグラウンドとなる知識がなく、ほとんど論文もなく、研究室の中に必要な装置もなく、すべて自分で作り上げていくと言うような経験は非常に少ないと思います。そのような分野は論文がたまにあっても必ずしも正しくないとか間違っている部分が沢山あったりする場合があるので、まず論文や教科書をそのまま信用してはいけませんとか、先生の言うことも正しいかどうか分かりませんとかこういうことから講義を進めていくつもりです。そして最終的に学問というものを体系的にどう作り上げていくかという、その姿勢を専門外の人にも理解してもらえるように話そうと思っています。

私は液晶ディスプレイの研究と同時に画像の研究を行っています。人間は外からの情報を得るのに五感を使っていますが、特に目を通して画像情報として得ている情報が85%以上と圧倒的に多いと言われています。しかし相手に情報を伝えるときは音声として音情報を使っています。すなわち、情報入力は画像、情報出力は音声と言うことになりますが、目の情報処理速度と比較して耳のそれは100分の1ほど低いことが知られています。このアンバランスを補うために言葉を使って情報を100分の1程度に圧縮して伝えていると考えられます。このために人間は生まれて長い年月をかけて言葉の使い方、すなわち情報圧縮の仕方を学んでいます。しかし外国語や専門用語がなかなか理解できません。これに対して、画像の方は圧縮の必要がないので、見ればすぐに分かってもらえます。百聞は一見にしかずと言われるのもこのような理由によるものです。講義でもなるべく画像を使ってイメージとして理解してもらえるようにしたいと思っています。そして考え方の本質を理解してもらえるように努力したいと思います。

小谷元子教授「離散解析学」担当

小谷元子教授「離散解析学」担当

●地球を測る

数学を研究しています。数学とは目に見えないものを見、手に触れないものを触る、そういう知恵を提供する学問であると私は考えています。数学の中でも特に幾何学という分野が専門です。図形の形を勉強する学問です。小学校や中学校の初等幾何学の授業で、三角形の合同条件などを習ったのを思い出してください。幾何学というのはジオ・メトリーという英名からも分かるとおり、もともとは大地をはかるという意味でした。つまり、土地を測量する技術だったわけです。古代ギリシア時代の人は既に地球が丸い形をしていること、どのくらいの大きさなのかを知っていました。では彼らは本当に地球を実測できたかというと当然そういう技術はなかった。技術がなくて本当に行って測れないところをどうやって測ったのか。それが人間の知恵です。その知恵を生み出したのが幾何学でした。

●宇宙を測る

今はもう地球は、どこでも行って直接測れるわけですが、それでは、宇宙はどうでしょうか。我々は、宇宙について知りたい、宇宙の中の生物ですから。宇宙のことを知りたいわけですが、宇宙の果てに行けるでしょうか、宇宙のはじめに行けるでしょうか。それは無理ですが、じゃあそれをあきらめるのか、そうではなくて、そういうことを解く言葉を提供するのが幾何学であり、数学です。

●見えないものを見る

この授業では「離散解析学」という話をさせていただきます。我々が日常使っている物ですね、熱が流れたり、電流が流れたり、我々の身近にある素材ですが、皆さんご存知のとおり、中には小さい分子とか電子とか素粒子とか、小さい小さいものが入っているわけですが、これは目に見えません。目に見えないけれども、熱の流れ方や電流の流れ方を決めているのは、この小さい小さいミクロな構造です。ミクロな構造を見ないでどうやって我々は現象を理解するのか、それを提供するのがやはり数学の言葉です。

●数学の言葉

なかでも特に私が学生に伝えたいのは、小さいところから大きいところまで世界はすべて数学で記述できるということ。我々の住んでいる世界の調和のとれた素晴らしさ、これを説明したいと思います。なんとなくモヤモヤっと、あぁ我々の住んでいる世界は美しいなとか、対称性があるな、と感じているわけですが、そのモヤモヤした感じを数学の言葉にした瞬間に、あっこれなんだと理解が飛躍的に進むことがあります。そのときの感動が、おそらく研究者皆が感じている研究の喜びなのです。そのブレイクスルー感、なんかモヤモヤっとしたのを、数学の言葉にした瞬間に、「あっそうだ。」と分かる。ここを皆さんに伝えていきたいのです。

●私が伝えたいこと

また、異分野融合の鍵は結局ここにあると思います。全ての学問分野に共通の構造、隠れた構造がある。その隠れた構造を数学の言葉で見いだした瞬間に、これとこれは同じものなんだ。これとこれうまく合わさるじゃないか、それが異分野融合、新しい分野を発見することだと思うのです。実際に異分野融合を提供できるかどうかはわからないですが、そのへんのブレイクスルーというか、理解が格段に進むところ、そこを皆さんに伝えていきたいと思っています。
 私、最近、数学と材料科学の恊働ということで、融合研究をはじめたところです。数学からみた自然で美しい構造が自然界に実在するか、という数学側の素朴な疑問を材料科学の方に提供したら、じゃあ作ってみましょうということで、今作ろうとしているところです。この異分野融合の経験をいかして、数学の美しさが現実の中でどういう風にして実現されていくのか、そういうことを話していきます。
 数学というと分かりにくい学問の代表のように言われることも多いです。複雑で抽象的な印象のある数学ですが、元々は人間が考えついた素朴なアイディアがどんどん抽象化して数学という形になったのです。素朴なアイディアが、どうやってその数学の言葉になっていくか、それが私が一番伝えたいことかもしれません。また、異なる背景と視点を持った様々な分野の学生とのディスカッションも楽しみです。

田中耕一先生の提案から

本講義の発端は、ノーベル賞を受賞された本学出身の田中耕一先生が融合領域研究を掲げる本機構に関心を示され、本機構を訪ねて来られた4年前に始まります。今日、視野の広い異分野を融合するような研究を遂行しうる若手研究者の養成が強く求められていることから、田中先生はご自身の経験をもとに、異分野の融合研究について、連続講義を提起されました。

21COEリーダーの協力を得て

そこで、機構では当時採択されていた13の21COEプログラムリーダーに呼びかけ、異分野融合という視点からの合同講義開設に協力を求めました。そして、平成19年10月から、井上総長を先頭に田中耕一先生をはじめ本学のトップリーダーたちによる「融合領域研究合同講義」が開講されました。

本年度は協力いただいた多くの先生がディスティングイッシュトプロフェッサーに任命され、異分野クロスセッション」講義に移動されました。しかし、新たに採択された12のGCOEプログラムリーダーの協力が得られ、3年目の講義を工学研究科で後期に開講予定です。(ホームページ参照)

合同講義の講義録の出版準備

2年間にわたる合同講義は多くの学生に深い感銘を与え、「Challenge(挑戦)」、「Creation(創造)」、「Innovation(革新)」の研究マインドをもった若者がたくさん育っていきました。そこでこの2年間の講義を集約した講義録を出版し、有意義な講義を広く公開しようと準備しています。ご期待下さい。

誰でも受講できます

本講義も出来るだけ多くの学生に受講してもらおうと企画されたものですから、本機構の修士・博士研究教育院生への応募とは関係なく受講することができますので、多くのみなさんの受講を期待します。

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