平成21年度第4回国際高等融合領域研究所セミナー

「バイオ最先端医療を数学で説く!」生命現象は数学で書き下せるか?
(医歯工学融合領域基盤)

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2010年3月3日(水)に平成21年度第4回融合領域研究所セミナーが開催されました。あいにくの曇りでしたが沢山の方にお越しいただきました。今回は医歯工学融合領域基盤の担当で数学と生命科学の融合をテーマに3部に分けて話を進めました。

進化論の中に赤の女王仮説という話が有ります。これはルイスキャロルの鏡の国のアリスから付いた名前で、共生進化が始まると同じ力関係を維持するためには常にあるスピードで進化し続けなければならず、進化が止まると滅びてしまうというものです。生命科学はまさにこの理論の状況で、大変な勢いで休む間もなく進んでいます。今回の話は、この日進月歩の生命科学の最先端の問題と最先端の数学の融合の必要性を解説するもので、文化系の学生さんも2人ほど参加されており、やや難しい話になったかと思います。

第一部では、医学の歴史、生命科学の問題、特に、昨今、研究が盛んなバイオインフォマチックスの問題に関して話をしました。一細胞で有る瞬間に発現している遺伝子が一万前後あり、それらの発現から細胞の状態をどの様に理解するか、また、異常とは何かをどの様に定義出来るかが問題であることを話しました。また、これらの遺伝子が数万からなる大変複雑なネットワークを作っており、これを解明するのに新たな手法が必要であることなど話しました。

第二部では、生命現象を表す数学者の試みについて、これらの内容と簡単な歴史を話しました。非線形微分方程式を用いるものとセルオートマトンを用いる2種類あったこと、ウルフラムの“生命はカオスの縁にいる”という話の内容を説明、また、複雑系としての生命理解がどの様に出てきたかを話しました。最後にセルオートマトンのクラス4と非線形微分方程式論の無限次元可積分系が対応する可能性があるという話をしました。

第三部では、これらを解決するために現在行われている試みの一つであるネットワーク理論に関して話をしました。ランダムネットワークとネットワーク進化、ネットワークモチーフの概念に関して話し、各モチーフに非線形微分方程式が付くこと、数千の連立非線形方程式を解くための試みに関して話しました。また、これらのネットワークモチーフの演算の必要性に関しても問題提起させてもらいました。

2時間という長丁場でしたが、最後まで参加していた頂き有り難うございました。参加した方からは、難しかったとの意見も頂きましたが、あえて真っ向から生命科学の大きな問題を紹介してみました。生命科学は大航海時代です。問題が山積し、誰でもこの荒海にこぎ出せば大発見がまっています。若い研究者の強い意思と、斬新なアイデアをまっています。融合はそこから始まると信じています。

(木村芳孝教授記)

平成21年度第4回国際高等融合領域研究所セミナー写真

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