平成21年度第3回国際高等融合領域研究所セミナー

移動する社会の融合研究―言語・人間・社会システム領域基盤―

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2010年2月10日(水)に平成21年度第3回国際高等融合領域研究所セミナーが開催されました。今回は、言語・人間・社会システム領域基盤による主催となり、「移動する社会の融合研究」というテーマのもとに、4名の登壇者がそれぞれ特徴のある研究報告を行いました。このテーマは、東北大学文学研究科グローバルCOEにおける国際移動部門との関連を意識したものです。グローバルCOEが「社会階層と不平等」の観点から社会移動を分析する一方で、国際高等融合領域研究所としては、より自由な発想と融合的視点による広義の「移動」研究を目指しました。

そこで、言語・人間・社会システム領域基盤では、事前に全4回の研究会をもちました。そのなかで報告者は、(1)これまでの所属部局にみる融合研究へのスタンス、(2)移動性を増す現代社会の捉え方、(3)自身の研究との接続、という三点を重視した報告と議論を行いました。

これをふまえ、セミナー当日、第一報告の中村文子特別研究員は、人身売買を事例に、情報と価値の移動の現状と、ネットワーク構築、新たな対策の重要性を論じました。

第二報告の菱山宏輔特別研究員は、インドネシアのゲーテッドコミュニティについて、米国、ヨーロッパ、ジャカルタ、そしてバリ島を比較検討し、「移動性を調整するセキュリティの技術」としての把握を行いました。

第三報告の李善姫特別研究員は、東アジアから東北日本への結婚移民を事例に、地域社会との関わりにおいてその多様化と重層性を明らかにし、トランスナショナルの中の新たなディアスポラ公共圏の可能性を提示しました。

第四報告のMALINAS David-Antoine特別研究員は、文学研究科グローバルCOEとの連携研究員という側面を生かし、日本における貧困者・路上生活者について、社会的(最)弱者の社会運動による社会移動の必要性、対策のあり方などを論じました。

最後に、菱山宏輔特別研究員が総括を行い、現代社会は、移動の増大による不安が生じていること、それに対して、それぞれの登壇者が依拠していた「ネットワーク構築」、「ゲーテッドコミュニティの形成」、「多文化共生」、「社会運動による自立」といった動きが生じていることを確認しました。さらに、様々な移動があっても不安を生まない社会、移動の消去による安心ではなく、移動性の直中にあっても安心できる社会、そうした展望に向け、融合研究からアプローチすることを共通の課題としました。

改めて、今回のセミナーは、社会科学系においていかなる融合研究が可能であるのかを、統一のテーマの下に本格的に議論する、絶好の機会となりました。あわせて、こうしたセミナーの延長には、各領域基盤や、さらにはアカデミズムの枠内におさまらない融合領域の研究・展開可能性も看取され得るのではないでしょうか。

(菱山宏輔特別研究員記)

平成21年度第3回国際高等融合領域研究所セミナー写真

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