融合領域研究所特別教員紹介

先端基礎科学領域基盤
鈴木香奈子

研究紹介

鈴木香奈子写真

自然界には様々なパターンが存在します。例えば、シマウマの縞模様など表皮の模様、最も複雑で興味深いものは、発生で見られる形態形成が挙げられます。これらは、ある決まった法則に従って変化が起こり、最終的にどれも同じような形になります。どのような法則が存在して、なぜどれも同じような形になるのでしょうか?このようなパターンの自律的形成のメカニズムについて、1952年にチューリングが「拡散誘導不安定化現象」を発見しました。これは、拡散の速さが異なる二つの化学物質が拡散しつつ反応すると、空間的に非一様なパターンが形成され得る、というものです。このアイディア以来、反応拡散系による数理モデルを用いてパターン形成のメカニズムを説明することが盛んに研究され、今日では様々な数理モデルが提唱されています。

私は、ここで重要な役割を果たしている反応拡散系を用いたパターン形成のメカニズム解明を目標に研究を行っています。特に、二つの未知関数(活性因子と抑制因子と呼ばれる化学物質)から成る形態形成のモデルを扱い、方程式に現れるパラメータと解の挙動や解の形状の関係を明らかにすることに取り組んでいます。特定の項やパラメータに注目することで、実際の現象におけるその項の役割や意味を明らかにすることができます。これにより、実際の現象でどのような化学物質がどのような反応をしてパターン形成に関係しているかを明らかにすることができ、新たなモデル提唱にも役立つと期待しています。また、実際の現象と照らし合わせる際には、その手段として数値解析が重要な役割を果たします。従って数値解析にも併せて力を入れており、理論と数値実験を体系的に扱った研究を進めています。

融合領域研究所では、数学が広く融合研究に浸透するよう、応用数学連携フォーラムという活動も行っています。これらの活動を通して、自分の研究がより広い分野で役に立つかもしれないという大きな期待と目標を持つことができました。もっと多くの方々が数学を使いたいと思えるよう、異分野から見ても興味深い数学をしていきたいと思います。


融合領域研究所特別研究員紹介21

情報工学・社会領域基盤
八巻俊輔

高精度な線形システム構築のための融合研究

八巻俊輔写真

私は「高精度ディジタルフィルタの最適設計および実現に関する研究」というテーマのもとで、国際高等融合領域研究所で研究活動を行っています。現代はアナログからディジタルの時代であり、音声や画像、映像など、あらゆるデータがアナログからディジタルに移行しています。我々の日常に存在するディジタルデータの容量は増加していく一方であり、これらのデータを高速かつ高精度に処理するディジタル信号処理システムの重要性がますます高まっています。このシステムの開発には高度な信号処理技術が必要であり、その技術を支えるための基礎理論が非常に重要なものとなります。

私は高精度ディジタルフィルタ構造の合成に関する研究に取り組んでおります。ディジタルフィルタをハードウェア上で実現する際には、係数量子化誤差が重大な問題となります。この係数量子化誤差がなるべく小さくなるように、ディジタルフィルタの構造を適切に決定する必要があります。係数量子化誤差を小さくすることができれば、フィルタ係数の語長を短くすることができ、ハードウェア規模の削減につながります。結果として、ディジタル信号処理システムの小型化、高速化、高精度化など、さまざまなメリットがもたらされます。そのため、高精度ディジタルフィルタ構造の合成は、ディジタル信号処理システムの高度化において非常に重要です。

私の専門分野はもともとディジタルフィルタの設計および合成に関する理論研究なのですが、国際高等融合領域研究所では、ディジタルフィルタだけではなくアナログフィルタも研究分野に取り入れ、これらを「線形システム」としてとらえ、より広い意味での線形システム理論の構築をめざしています。ディジタルフィルタの合成理論はより一般的な線形システムにも応用できる可能性があり、また逆に、線形システム理論がディジタルフィルタの合成法に適用できる可能性もあります。そのため、ディジタル信号処理のみならず、アナログ信号処理や回路網理論、線形システム理論、システム制御理論など、さまざまな分野の学問を私の研究テーマに取り入れ、融合的な研究を進めていきたいと考えています。


融合領域研究所特別研究員紹介22

言語・人間社会システム領域基盤
Malinas David-Antoine

Malinas David-Antoine写真

融合領域での研究紹介

私の研究は現在まで一貫して、深層における社会構造の変化に着目し、アジア地域やそれ以外の地域と比較しつつ、日本の最も貧しい人々の集団行動について、特に若年不安定労働者(16~39歳)、の分析を行うものです。

私は研究計画を遂行する上で、日本で若年者動員に最も成功している組合の一つである首都圏青年ユニオンに焦点をあててきました。この労働組合は2000年に結成され、とても活動的な組織です。この組織が、初めてネットカフェ難民についての調査を行ったのです。その調査が主な要因となり、日本の厚生労働省が中央行政として初めてネットカフェ難民についての調査を行うようになったと言えます。さらに、これはネットカフェ難民に対する新しい政策の策定へと繋がっていきました。毎年、青年ユニオンが主催する全国青年雇用集会は今年は大幅に参加者を増やしました。マス-メディアへの働きかけを積極的に行ったことも大きな要因となり、2010年には5000人以上の若者が参加しました。これは3年前とくらべると55%も大幅に増加したことになります。また同ユニオンの書記長は反貧困ネットワークの共同発起人の一人であり、不平等と貧困に対する戦いにおける重要なリーダーの一人でもあります。

私の研究では貧困者の動員とその動員の政治的・社会的影響を分析するために融合領域に基づく知識・方法を使用することになります。たとえば、経済学は貧困・格差を明らかにし、社会学は若者の動員を明らかにし、政治学は社会運動と政府の間の権力関係・交渉過程を説明します。また、法学は派遣法、生活保護法、社会的権利という法律制度の状態と変化による社会構造とその変動を明らかにします。弱者の動員を理解するために、各領域の相互作用により、分析を進めることになります。さらに、融合性を高めるために、一人で研究するだけではなく、共同研究活動にも参加しています。それは東北大学の学内共同研究のCSSI(Center for the Study of Social Stratification and Inequality)GCOEの共同研究会です。他方、“社会的権利のグローバル化”という日仏会館を拠点する研究会は法学者と社会学者のインターフェースになっており、“社会運動と政権交代”という基盤究(B)の2010-2013年の研究計画は政治学者と社会学者のインタフェースになっています。

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