総合科学技術会議

総合科学技術会議風景

科学・技術ミーティングin仙台
第4期科学技術計画策定をめぐって


科学技術政策への提言

1995年に成立した科学技術基本法にもとづいて5年ごとに立てられてきた科学技術基本計画の第3期目が本年度で終了する。第1期計画では総額17.6兆円(実績)、第2期計画では21.1兆円(実績)、第3期計画では25兆円(予算)というもので、基本計画は我が国の科学・技術のゆくえはもとより、研究を担う大学や研究諸機関、産業や地域にも大きな関わりをもっている。第4期の計画に対して日本学術会議は、昨年11月に「第4期科学技術基本計画への日本学術会議の提言」(日本の展望委員会)をまとめている。

ところで、昨年の政府の事業仕分けによる科学・技術および高等教育予算の大幅削減に対して、20学会(33万人会員)が昨年12月に緊急共同声明を発表し、本年3月には9大学学長(北大、東北大、東大、早大、慶大、名大、京大、阪大、九大)の「学術研究懇談会」が「国家の成長戦略として大学の研究・人材育成基盤の抜本的強化を-新成長戦略、科学技術基本計画の策定等に向けた緊急提言-」を、さらに4月には26学会(41万人会員)の共同シンポジウム「科学・技術による力強い日本の構築-我が国の科学・技術の進むべき方向と必要な政策を提言する-」(東大小柴ホール)が、相澤総合科学技術会議議員をして「決起集会」といわせたシンポが開催され、つづいて5月には先に緊急共同声明を発した9大学学長「学術研究懇談会」による学術研究シンポ「国家の成長戦略として大学の研究・人材育成基盤の抜本的強化を」(学士会館)が開催された。いずれも事業仕分けに危機感をもった大学人、研究者たちのまれにみる緊急行動であった。

科学・技術ミーティングの開催

こうした流れの中で、総合科学技術会議による科学・技術ミーティングが、3月に開催された大阪に引き続いて、6月19日(土)仙台のホテル仙台プラザで開かれた。出席者は政府側から川端達夫文部科学省大臣・科学技術政策担当大臣、平岡秀夫内閣府副大臣、津村啓介内閣府政務官、総合科学技術会議議員は8人(相澤益男、本庶 佑、奥村直樹、白石 隆、今榮東洋子、青木玲子、中鉢良治、金澤一郎)全員出席で意見を開陳する側に選ばれたのは岩崎俊一東北工業大学理事長、井上明久東北大学総長ほか6人であった。

会議の冒頭、進行役の相澤議員よりミーティングの目的として、一つは国民とともに創り進める科学・技術政策ということをめざし地域の意見を聞くこと、二つ目は科学技術担当の政務三役及び総合科学技術会議が地域のみなさんに科学技術政策についての考え方を広く情報発信して理解を得ることの二点が述べられた。ついで挨拶にたった川端大臣は、日本の発展のいしずえは科学技術にあり、これからの10年間についての新成長戦略を策定したが、中でも地球気候温暖化問題や命に関わる医療の問題に取り組むアクションプランとしてのグリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションを支える基礎的科学技術を成長の大きな柱として位置づけたと述べた。また効果的、効率的で独りよがりにならないためにミーティングを開催していること、日本の研究環境が整い、世界の人が日本に来たいという環境をつくってゆきたいとも述べた。

有識者の意見

つづいて有識者から持ち時間5分の意見開陳がなされた。はじめに「垂直磁気記録方式」を開発しハードディスク装置の大容量化に貢献した東北工業大学理事長岩崎俊一氏(東北大学名誉教授)が「科学と技術の循環-科学技術創造立国への提言-」と題して、自らの研究を振り返りながら、「科学は技術の母であり、また、技術は科学の父として次の発想の基盤を作る。科学技術創造立国とは科学と技術の循環をつくること、創造(科学)と展開(技術)とその統合(実社会との融合)が新しい文明への道筋」と語った。ついで金属ガラスの分野を開拓し、長年の歴史を持つ結晶金属材料に対してガラス金属材料の分野を創設した東北大学総長井上明久氏が「科学技術政策立案への参考意見 国力の源泉である高度科学技術社会を目指して」と題して、東北大学を運営してきた経験をもとに、高度科学技術を基盤とした世界トップレベル大学の育成のためには基礎基盤研究費が重要であるが、独立法人化以降運営費交付金の削減、競争的基盤経費の削減、人件費総枠が減少していることを指摘し、これらの増額要求とともに、国としての科学技術人財・の活かし方、科学技術に夢をもてる社会を提言した。秋田大学大学院工学資源学研究科教授柴山敦氏は「資源の持続的供給に向けた技術と人材の役割~Minority が担う次代のフロンティア~」と題して資源分野を扱う人材はレアな存在であり、せいぜい北海道大学、秋田大学、東京大学、九州大学、早稲田大学くらいしかなく、資源のない日本にとって資源分野の国際的人材・技術開発が不可欠であると述べた。東北大学理学研究科の小谷元子教授は「飛躍的発展を支える多様な土壌」で多様性の確保こそが持続的成長の鍵で好奇心に基づいた自由な研究が必要、女性研究者支援などを訴えた。東北大学大学院医学系研究科の柿崎真沙子助教は「駆け出しの若手研究者の立場から」、特定非営利活動法人natural science の大草芳江理事・有限会社 FIELD AND NETWORK 取締役は「natural science communication~ナチュラルな科学コミュニケーションを~」、作家の瀬名秀明氏(元東北大学機械系特任教授)「3つの対話が成す重層構造」、神風二東北大学脳科学グローバルCOE特任准教は「社会に向けて、より開いた学術のために」と題してそれぞれ意見を開陳された。 その後活発な討論が科学技術会議議員と有識者との間、フロアーの一般傍聴者との間で交わされた。

in大阪では

3月20日大坂で開催されたミーティングで意見を述べた有識者は議事録によると、西尾章治郎氏(大阪大学理事・副学長(研究・産学連携担当)、飯田健夫氏(学校法人立命館理事・副総長)、森下俊三氏(社団法人関西経済連合会副会長)、杦本日出夫氏(株式会社大日電子代表取締役社長)、平松邦夫氏(大阪市長)、上田泰己氏(独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センターシステムバイオロジー研究プロジェクトプロジェクトリーダー)、榎木英介氏(NPO法人サイエンス・コミュニケーション理事、サイエンス・サポート・アソシエーション代表、病理診断医)松井秀樹氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・専攻長・医学部教授)、宮川剛氏(藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門教授)、今村志郎氏(国際数学オリンピック金メダリスト)で、有識者が提出した資料も膨大なものであった。

詳細は
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/index.html
にあるので参照されるとよいが、かなり仙台とは違った趣のように感じられた。仙台のミーティングも上述のサイトで公開されることになろう。

井上総長や他の何人かの提言はともかく、緊急提言など危機感の流れた状況とは打って変わった内容にやや拍子抜けした思いが残った。

(S.I.)

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