融合領域研究所特別研究員紹介

ライフ・バイオ・ メディカル 領域基盤
佐藤 耕世

ライフ・バイオ・ メディカル 領域基盤 佐藤 耕世

融合研究してみませんか

私の主たる研究テーマは「生得的な行動が脳にプログラムされるメカニズム」を分子・細胞レベルで解明することです。そのために、脳神経科学と発生生物学の境界領域で融合研究を行っています。
 生得的な行動とは、誰から教わったわけでもないのに、動物が生まれながらに具える行動のことを言います。このような行動が脳にプログラムされるためには、行動を「形づくる」遺伝子が親から子に受け継がれ、それによって設計されるタンパク質の働きによって、行動を生み出すための神経ネットワークが構築される必要があります。
 ショウジョウバエの求愛行動は、生得的な行動を「形づくる」遺伝子を解明するためのモデルとして活発に研究され、これまでに多数の遺伝子が同定されてきました。それでは、同定された遺伝子がどのようなメカニズムによって神経ネットワークを構築するのか、というのが私に課せられた問題です。この問題を解明するため、私はこれまでに培ってきた発生生物学の知識と実験技術をフル活用することによって、未だ解明されていない脳神経科学の問題にチャレンジしています。
 本研究は、グローバルCOEプログラム「脳神経科学を社会に還流する教育研究拠点(拠点リーダー:大隅典子医学系研究科教授)」と連携しており、本グローバルCOEを構成するゲノム行動神経科学グループ(グループリーダー:山元大輔生命科学研究科教授)が目指す、ゲノムから細胞、行動までを階層横断的に解明する目標の一端を担っています。
 最近の脳神経科学の進歩は目覚ましく、分子や細胞などのミクロな階層から個体や社会行動などのマクロな階層まで学際的な研究が展開されており、様々なバックグラウンドを持つ研究者が相互に協力し研究を進めることの重要性がますます高まっています。国際高等融合領域研究所には、自分の研究を異分野の研究者に分かりやすく伝えるためのノウハウが蓄積されており、さらに研究者どうしが実際に出会う機会が多く設けられています。本研究所の活動を通じて異分野の研究者から多くの刺激を受け、それを主体的に活用することによって、いろいろなチャンスが生まれてくると思います。研究者にとって自分の研究が第一であることは言うまでもありませんが、そのことだけにとらわれずに積極的に異分野の研究者たちとの交流をはかることは、自分の将来にとって大変貴重な経験となることでしょう。あなたもぜひ私と融合研究してみませんか?

ライフ・バイオ・メディカル領域基盤
上野 裕則

ライフ・バイオ・メディカル領域基盤 上野 裕則

繊毛・鞭毛運動による生体内物質輸送機構のナノ医工学研究

私は「繊毛・鞭毛運動による生体内物質輸送機構のナノ医工学研究」というテーマのもと、国際融合領域研究所で研究を行っています。近年、繊毛・鞭毛と呼ばれる微細な細胞小器官の研究が医学・生物学の広い分野で注目されてきています。脊椎動物のほとんどの細胞がこの繊毛を持っていることが分かってきており、初期発生胚のノード繊毛は臓器の左右非対称性の形成に関わっていることや、運動性を持たない繊毛が細胞外の環境のセンサーとして働いていることが分かってきています。
 私自身は気管上皮細胞に存在する繊毛運動に着目し、呼吸によってとりこまれる様々のウィルスや埃などがどのように排除されているのかを解析しています。気管上皮細胞には粘液を分泌する分泌細胞も存在しており、細胞表面は粘液で覆われています。この粘液が繊毛運動によって絶えず肺から咽頭側へ輸送されることによって、侵入した異物を除去しています。この粘液輸送の際、繊毛運動が個々の細胞、または細胞間でどのようにコミュニケーションをとりつつ運動し、一定方向(肺側から咽頭側へ)の水流を生み出しているのかを生物実験と計算シミュレーションを融合させて研究しています。また、この繊毛運動の原動力である分子モーター・ダイニンがどのように力を発生させ、繊毛運動を駆動しているのか、その運動機構の研究も同時に進めています。

先端基礎科学領域基盤
相川 春夫

先端基礎科学
領域基盤 相川 春夫

有機合成化学を基盤とするボトムアップ融合研究

有機材料、医薬品などの機能性物質において、芳香環構造が構成要素によく用いられます。一般にこの芳香環はπ電子が非局在化した平面構造をとりますが、その構造を大きく変えずにキラル化できれば多様な性質を持つ物質が提供可能になると考えて、研究を行っています。
 この目的に関して、置換基の立体反発によりねじれた構造を有する芳香族化合物であるヘリセンに着目しました。種々のヘリセン誘導体・オリゴマーが興味深い挙動を示します。例えば、平面性アキラル芳香環では見られない強い不斉認識会合や二重ラセン-ランダムコイルスイッチング等が挙げられます。現在、これらの知見をもとに新規ヘリセン分子としてキラルナフタレンの研究も行っています。また、高次構造体構築を目指して、合成したヘリセン分子を基板上に配列してSAM形成(自己組織化単分子膜Self-Assembled Monolayer)やゲル化に応用しています。この様に小分子からはじまって大分子、さらに高次構造体へと繋げるボトムアップアプローチは有機合成化学ならではの手法です。
 最近、工学研究科の表面科学者との融合研究も始めています。有機合成によって作られた分子の形状をAFM(原子間力顕微鏡 Atomic Force Microscope)等により直接観察し、その結果を分子の設計に生かすフィードバック的な研究も興味深く、異分野融合の力強さを実感しています。この様に異分野研究を多く取り入れることを考えた研究を行います。

先端基礎科学領域基盤
弓削 達郎

先端基礎科学領域基盤 弓削 達郎

半導体ナノ構造中の量子が織りなす多彩な現象の融合研究

近年の半導体微細加工技術の発展により、ナノメートルスケールのデバイスが作成されるようになっています。このような小さなサイズのデバイスでは、キャリア(電子やホール)の量子性が顕著に現れ、マクロなサイズのデバイスでは見られない、新奇な現象が見られます。また、キャリアの軌道及びスピン、さらには核スピンといった様々な自由度の間での相互作用も重要になってきます。
 私の研究の一つは、このような半導体中のナノ構造で発現する特徴的な伝導特性や、様々な自由度のコヒーレント制御・検出の理論的な解明・予測です。実験で現れる伝導特性がどのような自由度間の相互作用が主因となって起こるのかを解明することは、将来的にはデバイスの新たな制御方法へとつながります。また、コヒーレント制御・検出の研究は将来の量子コンピュータ等の量子情報技術につながるものとして期待されており、情報科学との融合研究も視野に入れて研究を進めたいと考えています。
 もう一つの研究対象は、半導体中の2次元電子系で見られる、量子ホール効果と呼ばれる現象に現れる状態です。そこには通常の3次元系では存在しえない、奇妙な準粒子ができることが理論的に予測されています。これを実験的に検出する方法を実験家と協力して提案・実現したいと考えています。また、この粒子は数学的にも非常に興味深い性質を備えており、数学との融合研究も進めたいと考えています。

先端基礎科学領域基盤
杉本 周作

先端基礎科学領域基盤 杉本 周作

「海」を知る;融合研究がもたらす新たな海洋学

生命の起源である海洋は、地球の表面の約70%を覆っており、平均水深は4000mに至ります。私は、かくも広大な海洋を理解することを目指しています。
 私の専門は海洋物理学です。海洋物理学を行う上で、主に2つのアプローチがあります。計算機による再現実験と、観測により得られた資料の解析です。私は後者を得意にしています。観測の現場では、2000年以降、Argoフロートと呼ばれる画期的な自働観測装置が開発され、世界中の海で展開されています。この装置は、海面から水深2000mまでの水温と塩分を自働で観測しています。そして、採取されたデータは、衛星に送信され、地上にいる私たちのもとへ届けられます。すなわち、私たちは、陸上にいながらにして、海の状態を逐次監視できるようになりました。Argoフロートが登場した結果、観測資料数は爆発的に増加し、海洋物理学は、日々飛躍的な進化を遂げています。
 海の変動(水温や波)は、主に大気からの強制(日射や風)によります。また、海が変われば、そこに生息する生物(魚等)は影響を受けます。すなわち、海を知るためには、物理学によるアプローチだけでは不十分で、気象学・海洋生物学・海洋化学等との融合が必要不可欠です。私は、異分野融合を果たすことで、海洋を丸ごと理解したいと考えています。

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