歓びの談話 〜抱負を語る〜

 9月5日に採択が決まったお二人の研究室で抱負を伺ってきました。政権が変わり不透明な部分もありますが、お二人の歓びの声をお伝えします。

江刺 正喜
原子分子材料科学高等研究機構教授

原子分子材料科学高等研究機構教授 江刺 正喜

社会のニーズに目を向けて
      ─産産学連携で基礎と実用を結ぶ

「この課題は、東北大と産総研の連携による、次世代産業の種になる開発プロジェクトです。東北大学は基礎研究から出発し、自由度を生かした初期試作を担当し、産総研が産業につなげる量産試作プロセス開発に挑みます。
 微細化・高密度化した集積回路における経済性での行き詰まりを打破するために、①多様な異種要素を一体化する「ヘテロ集積化」により、高付加価値化し、②試作開発を低コストで可能にする「乗り合いウェハ」で、開発リスクを抑え、③「試作コインランドリー」で設備を持たなくても開発できるようにし、参入障害を下げ、④「超並列電子線描画装置」を開発し、多品種少量LSIをマスクレスで実現する目標を立てています。
 この研究費の多くは研究開発に携わる研究者達の人件費ですが、100億円を見込みました。また旧半導体研究所の施設を積極的に活用する予定です。安全・安心な社会を実現し、環境・省資源・低エネルギー、老齢化など国民的・地球的課題を克服していくためには、従来のように産学の一対一の対応ではなく異種の機関が複数連携する産産学連携を図り、産業競争力を強化していくことが求められていると思います。」
 30分程度の取材時間の予定を大幅に越えて熱弁を振るわれました。次号にその内容を紹介しますが、江刺先生の生き生きとした研究室の活動が『東北大学・江刺研究室―最強の秘密―』(彩流社)(2009)と題して出版されています。

江刺 正喜(えさし まさよし)

◎略歴
1976年東北大学工学研究科電子工学専攻博士課程修了。
1976-1981年東北大学工学部電子工学科助手。
1981-1990年同通信工学科助教授。
1990-1998年同工学部精密工学科教授。
1998-2005年東北大学未来科学技術共同研究センター教授。
2005-2007年同工学研究科ナノメカニクス専攻教授。
現在は東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授。

◎主な受賞
日本IBM科学賞(1993)、SSDM Award(2001)、第3回産学官連携推進会議文部科学大臣賞(2004)、第54回河北文化賞(2005)、紫綬褒章(2006)など多数。

大野 英男
電気通信研究所教授

電気通信研究所教授 大野 英男

社会的基盤である集積回路の 省エネルギー化へ

「皆さんが使っているパソコンですが、使うときには電気を入れて待たなければなりません。それには理由があって、電気を使わないで情報を記憶する部分と、電気を使って情報を演算する部分とに分かれているからなのです。電気を入れると、記憶している部分から情報を計算するところに移してそれで動き始めるという仕組みになっています。
 計算するところが集積回路で、記憶して蓄えているところがハードディスクです。ハードディスクというのは磁石で記憶しています。磁石の元がスピンなので、スピンを使ったエレクトロニクスという意味で、この分野をスピントロニクスと呼んでいます。われわれがやろうとしていることを簡単に言うと、集積回路(半導体)の中にスピントロニクス技術、すなわち磁石を入れて、記憶しているときに電気がいらないような集積回路を作ることです。
 これまで集積回路の計算する能力は年を追ってどんどんと上がってきました。それが最近、これ以上は上げられない限界に達してきました。その一つの理由は消費電力です。たくさんの計算を速くやろうとすると電気がたくさん必要になり、これ以上高速に情報を処理しようとすると、熱くなりすぎて溶けてしまうほどになります。これ以上能力を上げられないという限界に近づきつつあります。
 私が提案しているのは、電力をたくさん使わない、かつもっと性能の良い集積回路を作ることです。これは、記憶を保っているときには電気を使わないで磁石を使うことによって達成できます。それにより、省エネルギーの集積回路ができます。集積回路は、今はわれわれの生活の隅々まで入っているので、その部分を一層省エネルギーすることによって、うんとエネルギーが少ない社会にできると考えています。また、今までは電力消費の関係で使えなかった応用に、私たちが開発した省エネルギー集積回路が使えるということも期待しています。
 同じ情報処理をより少ないエネルギーで実行できると言うことは、より一層高度な演算や高い性能の要求に応えられるとも考えています。計算能力の限界を決めている消費電力の壁が、一時的にせよ取り除かれるので、ハードウェア(集積回路)の性能が上がらないとできなかったこと、計算能力が足りなくて出来なかったことが出来るようになるとも期待しています。さまざまな社会的な基盤を支える集積回路をエネルギー消費の少ないしかしより充実したものに出来るはずだと考えています。プログラムの5年で、このような省エネルギー集積回路を実証していきたいと思っています。」

大野 英男(おおの ひでお)

◎略歴
1982年東京大学大学院工学系研究科
電子工学専攻・博士課程を修了。
1982-1983年北海道大学工学部講師。
1983-1994年同助教授。
1988年IBMのワトソン研究所客員研究員。
1994年東北大学工学部教授。
1995年東北大学電気通信研究所教授となり現在に至る。
東北大学のディスティングイッシュト・プロフェッサーの一人。

◎主な受賞
日本IBM科学賞第12回(1998年)『強磁性半導体とそのヘテロ接合に関する研究』、国際純粋応用物理学連合磁気学賞(2003年)、アジレント欧州物理学賞(2005年)、日本学士院賞(2005年)、東北大学総長特別賞(2005年)、応用物理学会フェロー表彰第1回(2007年)ほか多数。

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