平成21年度「融合領域研究合同講義」内容

【後期開講】講義室:工学部共通第一講義室

No 講義日
(予定)
講時 担当者 所属等 講義題目
(予定)
講義概要
1 10月7日 13:00~
14:30
井原 聰 国際高等研究教育院長 講義ガイダンス 「合同講義」開設の由来、「合同講義」の意義及び国際高等研究教育機構の理念・使命について解説するとともに、講義の進行について、講義の受け方や感想文の提出など成績評価について解説します。
井小萩 利明 国際高等研究教育機構長 融合研究の新機軸を目指して 21世紀に入り、世界的規模で環境やエネルギーなどの重要問題が顕在化している。これらを打開するには、従来の還元主義から脱却し、ますます多様で複雑化する要素を総合的に捉える視点から生み出される新たな科学技術が求められている。ここでは、これらを踏まえて、機構内に設置された国際高等融合領域研究所における融合研究の現状について講述する。国際高等研究教育機構は、異分野に跨る融合研究を通じて創造力を育み、総合知を発揮して科学技術を創出できる大学院生や若手研究者の育成を実践している。
2・3 10月14日 13:00~
16:10
田中 耕一 客員教授 異分野融合が行える環境は?質量分析開発を一例として 質量分析は、化合物の質量を計測することにより定量・定性分析等を行う方法である。手順として、試料前処理、イオン化、イオン分離、検出、スペクトル測定、データ処理等が行われる。扱う試料は(法)医学・生物学・薬学・農学・化学・地球惑星科学・考古学・環境学等、広範囲に及び、化学的手法によって生成した試料由来イオンに対し、数学を用いて物理式を解いたイオン分離が行われ、電気・情報・通信・ソフトウエア手法を用いてイオン検出・測定・データ処理が行われる。すなわち、質量分析は極めて多くの学術分野との相互理解と協力があって初めて成立する、と言える。また逆に、質量分析は学術分野の発展に幅広く貢献できる、とも言える。質量分析に限らず、例えば製造業では、異分野融合から独創的な開発が生まれる素地が備わっており、産官学の協働等によって今後益々発展が期待できること等を講義する予定である。
4 10月21日 13:00~
14:30
山本 嘉則 原子分子材料科学高等研究機構長 融合研究を行うには?新しいタイプの人材 19世紀後半から勃興した医薬品の開発、医薬品製造工業の隆盛は、人類の健康維持と長寿命化、さらにquality oflifeの向上に多大の貢献をしてきた。一方で科学的知識不足のため薬害を招いた例もあった。学術的には、医化学や合成化学及び生化学の融合により最終的な医療品開発へとつながり、融合領域研究が必要な分野である。ここでは有機化学の基礎の上に、合成化学を中心として医薬品開発について講義する。人類史上で世界を変えたと考えられる100の医薬品をAからVまで取り上げその発見の経緯、化学構造、合成方法、などについて解説する。例えば、Aspirinは簡単な構造、(2-アセトキシ)安息香酸、をもつ消炎症剤で、学生実験でも合成することが出来る、100年以上の歴史をもつ薬の中の薬とでもいうべきロングセラーである。Viagraは1998年に登場し、2004年には3000億円/1年間の売上高に達しているヒット商品である。発見の経緯を知ると多くの人に発見のチャンスがあることが判る。
5 10月28日 13:00~
14:30
大西 仁 法学研究科教授 国際社会の変革と科学者・大学が果たすべき役割 現在、人類社会が直面している主要な問題(global issues)としては、環境破壊、大量破壊兵器の拡散、民族紛争・人権抑圧、貧困・飢餓、国際経済秩序の不安定、国際情報秩序の不均等、等が挙げられるが、これらの問題はいずれも、一国家だけで解決することは不可能であり、又、軍事的手段で解決することも困難である。ところが、近代の国際社会は、①国家(states)が唯一の有力な行動主体(actors)である、②国際政治で最も効果的な(effective)手段は軍事力であるという主要な特徴を有している。したがって、人類がglobal issuesを解決して望ましい未来社会を実現するためには、近代の国際社会のあり方を根底から変革する必要がある。本講義では、以上のような考察に基いて、現代の国際社会において、どのように脱国家化が進行しつつあるか、又、人類社会は、今後、いかにして、どのような非軍事的手段(soft power)を開発すべきか、について探ると共に、そこで、科学者及び大学がどのような役割を果たすべきかについて考えたい。
6 11月4日 13:00~
14:30
長谷川 公一 文学研究科教授 環境研究と融合領域研究 環境研究はすぐれて総合的・学際的な分野であり、融合的・学際的研究の中でも、環境研究には日本でも国際的にも一定の蓄積がある。これまで公害問題や地球温暖化問題の研究などに、それぞれの学問特性をふまえて、社会科学者と自然科学者の共同研究がはたしてきた役割とその意義を振り返りながら、融合領域的な環境研究をさらに進めていくうえでの課題を考察する。
7 11月11日 13:00~
14:30
井上 明久 総長 材料科学・工学融合に基づくバルク金属ガラスの開発と応用 人類社会の基盤材料として、セラミックス、高分子、金属が知られている。金属は青銅器文明、鉄器文明を通して数千年間使用されてきている。18世紀の産業革命以前に使用されていた金属は、金、銀、銅、鉛、水銀、錫、鉄、亜鉛等の11種類に限られていたが、産業革命後、利用できる金属の種類は70種類以上と劇的に増加し、今日の近代金属文明の基となっている。これらの金属材料は3次元形状を利用できるバルク材では、原子が周期的に規則正しく配列した結晶構造に限られていた。しかし、1990年以降、ある特定の成分ルールを満たした多元系合金において、過冷却液体の結晶変態に対する安定性が異常に高まり、徐冷却プロセスにおいても結晶化を起こさず、過冷却液体がそのまま固まりバルク形状のランダム構造(ガラス)金属が生成する事が見出された。このことは、これまでの金属の凝固現象の常識を覆すものであり、学術的・工業的視点から世界中の注目を集めている。新金属材料であるバルク金属ガラスの基礎と応用について学習する。
8 11月18日 13:00~
14:30
山口 隆美 医工学研究科教授 計算生体力学の課題 計算生体力学とは、計算によって、生命体の構造と機能、そして、その連関を明らかにしようとする学問である。 遍く、地球上の生命体は陸棲のものであれ、海棲のものであれ、地球の重力環境に棲息し、従って、重力にもとづく種々の力学的拘束のもとにある。この結果として、生命体のいかなる機能も、力学的な構造によって担われており、その構造は力学的環境によって規定されている。計算生体力学では、このような力学的な構造と機能の相関を計算力学の手法で明らかにすることにより、生命の本質を知る事を目的とする。本講義においては、我々が研究してきたヒトの循環器(心臓と血管)の流れと構造の相関の解析を中心に、計算生体力学の課題を明らかにすることを試みる。
9 11月25日 13:00~
14:30
山口 雅彦 高等研究機構教授 精密巨大合成分子の化学と機能 私達の社会は医薬品と材料などの多種の有用物質の効率的利用を基盤としています。これにともなって、必要な量の有用物質が多くの段階を経て化学合成され供給されています。加えて、社会情勢の変化に伴って物質あるいは製造方法が変化することに対応せねばなりません。ここで新しい科学と技術が求められます。オングストロームサイズの小分子からナノメートルサイズの巨大分子とその集合体の順に物質の階層を上げる方法論によって、新しい科学を創成して技術を開発することについて解説します。
10 12月2日 13:00~
14:30
安達 文幸 工学研究科教授 無線通信工学の最前線 次世代無線通信ネットワークでは1ギガビット/秒を超える無線通信技術が必要とされているが、厳しい周波数選択性フェージングの発生がその実現を難しくしている。本講義では、まず周波数選択性フェージングの発生機構とその数学的モデルについて述べ、これを克服する周波数領域等化(FDE)やマルチアンテナ(MIMO)システムなど最新の無線通信技術について説明する。また、次世代システムの概要について紹介する。
11 12月9日 13:00~
14:30
木島 明博 副学長(農学研究科教授 海洋生物資源の保全と生産に対する融合研究の課題 21世紀における科学の課題として、エネルギー問題や環境問題とともに人類生存の基盤である食料問題を忘れてはならない。食料生産は、陸域では生物機能を改善して人為的に生産を高めることを中心にするが、海洋や河川湖沼等の水域では人為的生産(養殖生産)も行われるものの、自然における多様な種の資源を活用する漁獲が中心となる特徴がある。それ故に、科学的根拠に基づき、自然の生産力を活用して生物資源を永続的に維持する方策を創造しなくてはならない。本講義では海洋における世代を越えた生物資源の保全と生産について、研究例を挙げて説明し、近未来の海洋生物生産に対する融合研究の課題について考察する。
12 12月16日 13:00~
14:30
佐藤 正明 医工学研究科長 血液循環系のバイオメカニクス 生体の構造や機能を力学的に解析する領域は「バイオメカニクス」と呼ばれている。本講義では、血液循環系を対象としてバイオメカニクスの側面から血液の流れ、血管壁および血管を構成している細胞について概説する。血管内を血液が流れることによって起る細胞の反応について述べた後、血管病変としての動脈硬化発生が血液の流れと密接に関係していることについて触れる。また、病変の進行に伴って発生する血栓形成も血液の流れと関係していることを紹介する。最後に、動脈硬化病変の進行後に起こりうる大動脈瘤の発生と破裂の問題についても触れる。主たる講義内容は下記の項目である。1.バイオメカニクスとは2.血液と血流に関する基礎的事項3.動脈硬化と血管内皮細胞4.流れに対する血管内皮細胞の応答5.細胞の内部構造と形態決定に関するバイオメカニクス的解析6.静水圧に対する血管内皮細胞の応答7.微小循環系における血栓形成モデルと血流特性8.動脈硬化壁の破裂に関する実験
13 1月6日 13:00~
14:30
今井 潤 薬学研究科教授 医薬の創生・応用と融合領域研究 医薬品は、臨床の必要性を基礎として創生される。創生された医薬品は本来物質であり、そのままでは決して医薬品となり得ない。多くのトランスレーショナルリサーチを経て、開発され、臨床にフィードバックされる。本講においては、医薬品の創生の基礎となる臨床のエビデンスの構築につき述べる。
14 1月13日 13:00~
14:30
後藤 孝 金属材料研究所教授 高機能セラミックス材料 宇宙ロケット材料、エネルギー変換材料、高強度・高靱性社会基盤材料など、多くの分野でセラミックス材料は大きな役割を担っている。本講義では、これらセラミックス材料の製造プロセス、微細構造、特性の関係を概説するとともに、プラズマ、レーザーなど特殊エネルギー場を応用した先端セラミックス材料の開発の現状を概説する。
15 1月20日 13:00~
14:30
橋本 治 副学長(理学研究科教授) 宇宙における物質生成の諸段階─ 原子核物理学の最前線 ─ 我々の住む物質世界の質量の大部分は、原子核が担っている。ビッグバンに始まる宇宙のなかで原子核が生成された自然界の歴史は、様々なエネルギー領域における原子核反応と原子核構造の展開との歴史ともいえる。特にそのなかでは、極端な条件の下にある様々な原子核が生起し消滅した。原子核物理学の最前線では、原子核は陽子と中性子を総称する核子だけではなく、核子の励起状態、様々な重粒子やクォークを構成子とする量子有限多体系としてとらえている。とくに、「奇妙さ量子数」を持つ重粒子(ラムダ粒子やシグマ粒子)をも構成子とする「ハイパー原子核」の研究は、理論実験両側面から近年大きく進展した。また、中性子数が極端に多い原子核の研究も、新たな研究手法が開発され進歩が著しい。本講義では、これら「強い相互作用により結びつけられたハドロン有限多体系」である原子核物理研究の最前線について、最新の実験も紹介しながら説明する。
16 1月27日 13:00~
14:30
井原 聰 国際高等研究教育院長 まとめ、評価等 講義を受講したみなさんがいかにこの講義に取り組んだかについて講評した上で、融合領域研究の現状と動向、研究の意義や課題等のまとめを行います。
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