融合領域研究所特別研究員紹介

言語・人間・社会システム領域基盤
中村 文子

中村氏ph

人身売買撲滅を目指して
─ 融合研究からのアプローチ ─

私達は、今日の国際社会において、環境問題や伝染病、麻薬や武器の拡散といった国境を越える様々な問題に直面しています。それらはとても複雑な問題構造を抱えており、それに対処するためには一つの分野からではなく、複合的・融合的に問題を分析し、解決策を検討していく必要があります。

国境を越えて発生している複雑な問題の一つとして人身売買があります。年間約1,230万人がその被害者となっており、大変深刻な問題として憂慮されています。臓器売買や強制労働等様々な人身売買がありますが、本研究ではとくに深刻な被害をもたらしている女性と子どもに対する性的搾取を目的とした人身売買に焦点を当てています。親戚・知人によって売却され、国境を越えて需要のある地域へ送り込まれ、多額の借金を背負わされて強制的に性産業に従事させられる―人間としての扱いを受けない被害者達の生活はとても凄惨なものです。

この問題に対して、国際社会は国連を中心に反人身売買の条約を締結しました。人身売買を明確に「犯罪」と規定したこの条約の締結は、人身売買の問題解決に向けた大変重要なプロセスの一つですが、人身売買は未だ撲滅に至っていません。

人身売買の被害者は、貧しい低開発地域から豊かな先進地域へ売買されています。このことから、貧困や経済格差が問題の基底にあることは間違いありません。しかし経済格差だけでこの問題を捉えることはできず、より多角的に問題構造を分析する必要があります。性的搾取を目的とした人身売買の特徴は、被害者のほとんどが女性であり、外国人であり、貧しい人々です。

そこには、男/女、内/外、貧/富の3つの非対称的な権力関係が存在し、被害者はその劣位に置かれた人々なのです。この非対称的な権力構造では権力者の被権力者に対する差別を伴うことが多く、そのような差別を乗り越える新たな規範を社会的に構築し浸透させていく必要があります。反人身売買を働きかける非国家主体や国際機構、地域機構による活動の連携も必要です。経済や社会学、国際政治学、ジェンダー論やネットワーク論等様々な分野を融合させながら、人身売買という複雑な問題の研究に取り組んでいます。

言語・人間・社会システム領域基盤
土田久美子

土田氏ph

多角的視野、融合的アプローチによる多文化共生モデルの構築

私は、現代社会に適合的な多文化共生モデルの構築をめざし、国際高等融合領域研究所で研究を行っています。おもに社会学における社会運動論、マイノリティ論を専門としながら、法学や政治学的な分析視角を融合的に用いることによってマイノリティ集団間の関係構築のプロセスを検討しています。

異なる他者との共存、しかもそれぞれに異なる特質を持つ両者のあいだの関係の断絶や対立を解決したうえでの共生のあり方の追求は、グローバル化の進展とともにますます重要視される現代社会的な課題となっています。私は、この社会的課題への関心を背景にして、社会変動によって最も大きく影響を受ける移民や人種/エスニック・マイノリティ集団の研究を行ってきました。私の研究の核となる問いは、次の二点です。第一に、人種やエスニシティに関連してマイノリティとして分類される人びとが、当該社会との相互作用をとおして社会的不平等をいかに克服しようとするのか。第二に、異なる複数の集団が対立を回避し秩序を形成できる社会的条件は何か。

これらの問いに基づき、アメリカ社会をおもな対象として調査研究を進めています。とくに現在は、様々なエスニック集団や移民支援組織の活動が活発であるロサンゼルスをフィールドとしています。日系、韓国系、フィリピン系、メキシコ系の組織に注目し、住居・商業地区や雇用関係・労働環境をめぐる集団間の対立回避と協働関係構築のプロセスと行政による介入のあり方を調査分析しています。

エスニック・マイノリティ、移民集団を取り巻く問題は広範囲にわたります。それぞれの集団の特徴や課題は、文化的側面はもちろんのこと政治や法制度と関連しながら、それぞれに異なりながらも複雑に結び付いています。それゆえに、政治学・法学・社会学それぞれの学問的利点を融合的に結び付ける視座と手法が不可欠となります。このように多角的視野と融合的アプローチを用いることによって、多様化がいっそう進展する現代社会に適合的な多文化共生モデルを考えていきたいと思っています。またその展開として、研究成果の日本社会への応用可能性を導き出したいと考えています。

言語・人間・社会システム領域基盤
李 善姫

李氏ph

融合研究から生まれる「共生」への道筋

私の研究は、アジアにおける「多文化共生」のモデルを構築することであります。近年、日本と韓国は、急速な少子高齢化という国内の問題を抱え、外国人労働力(再生産部門を含む)の受け入れが必要不可欠になりつつあります。そういう状況から両国では、まさしく次世代の課題として「多文化社会」への転換が求められており、そのための様々な工夫が試行されています。それらの試行が、どのような社会的効果を生み出し、またどのような課題を含んでいるのかを分析することで、アジア型「多文化共生」のモデル構築が可能になると考えています。

その具体的アプローチとして、特にローカルレベルや市民レベルでの「多文化共生」への動きをボトム・アップ式で比較分析しています。研究の主要対象としては、移民者の中でも「移民とジェンダー」という複合差別の中にいる結婚移民女性達をターゲットにしています。それによって、アジア全体における社会構造的問題と、各ローカルで潜在されている差別の構造を同時に認識することを目指すと共に、それらの差別構造を是正することによって、結果的には定住外国人だけではなく、元住民らの中でも「共生」が図られることを提示していきます。最終的には、「共生」のために必要な地域社会システムモデルを構築し、提言することが本研究の目的であります。

本研究は文化人類学のフィールドワークを主な研究方法としておりますが、同時に、地域社会学や犯罪予防学、教育学、経済産業分野、社会保障分野など、外国人花嫁を取り巻くあらゆる関連分野との融合研究を必要としています。また、新たな地域住民となる外国人との共生には、新しい社会的ニーズもたくさん発生します。それらのニーズを明らかにすることは、新たな商品開発や新たな街づくりにも繋がることと思います。本研究で行う学問分野の横断的研究経験は、将来的には、外国人だけではなく、すべての地域住民を取り組む「共生学」として新たな学問領域の開拓につながると考えています。

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