基礎研究の多様性の減少、大学機能の多様化

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科学技術政策研究所は日本の代表的な研究者・有識者を対象に、「日本の科学・技術の状況を問う意識調査」を平成18年度から数回行なってきました。本年3月に発表された調査結果では「基礎研究の多様性が小さくなっているとの危惧が示されている」として注目を浴びました。そこで、その報告書(「科学技術の状況に係る総合的意識調査(定点調査2009)総合報告書」)を振り返ってみましょう。

それによると2001年頃と比べて「日本全体としての基礎研究の多様性が減少しているという認識」が示され、「長期の時間をかけて実施する研究」「計量標準、材料試験など基盤的な研究」及び「新しい研究領域を生み出すような挑戦的な研究」が少なくなっているとの回答が多いといいます(図)。また、基盤的経費による研究資金の減少が、世界トップレベルの成果を生む可能性の高い若年者の独創的かつ創造的研究を阻害する可能性があるとの意見も挙がっているといいます。さらに、「大学や公的研究機関の若手研究者の自立性については、おおむね上昇傾向にあり、問題のない水準に近づきつつある。大学の若手研究者の自立と活躍の機会を与えるための環境整備は着実に進みつつある」という前向きの見方のある反面、「女性研究者の活躍の状況については2009年度に頭打ちとなった」「海外の優秀な研究者を獲得するための活動については、2006年~2008年調査においては上昇傾向が見られたが、2009年度調査では、多くの問で指数の上昇が頭打ちとなった」という頭打ちの見方も少なくなかったようです。加えて「科学研究費補助金の使いやすさは大きな改善を見せている」としつつも、「科学技術に関する政府予算は、まだ充分で無いとの認識は継続している」としており、日頃の実感とよく合った印象を与える調査結果だったように思われます。

一方、あまり話題にはならなかったようでうすが、大学教育や大学に関する見方についても興味あるデータが種々示されていました。そのいくつかを列挙してみましょう。「望ましい能力を持つ人材が博士課程後期を目指していないという認識が更に高まっている」「博士号取得者が多様なキャリアパスを選択できる環境整備については、著しく不十分との評価が継続している」「2006年度からの変化をみると大学回答者および公的研究機関回答者において、基盤的経費による研究資金の必要度が上昇している」「大学に求められる機能が多様化する中で、大学の活動や体制もそれに応えるべく変化している」として「産学連携の高まりは、大学における研究開発活動、教育活動のいずれにも良い効果があるとの意見が、2006年度調査から継続している」といいます。また、「地域ニーズに即した研究や科学技術人材育成への取組みに、大学が積極的になってきているとの認識が示され」ているがアウトリーチ活動では「まだ充分な状況ではないが、研究機関や研究者による研究内容や成果、その社会への良い影響と悪い影響などの説明が進みつつある」との指摘や、2001年頃と比べると、大学の個性化が進みつつあり、産学連携を進める大学が多くなっている、地方の大学の方が、個性化の度合いが強いとの指摘もなされています。さらに「大学の施設・設備、研究資金、研究スペース、研究支援者の状況は不十分との評価が継続」し、「大学機能の多様化に伴い、大学教員への負荷が増している」「科学技術システム改革が進む中で、大学教員に求められる役割が増加し、大学の研究者の研究時間が減少している。その理由として、回答者の多くが評価や組織運営業務などの増加に伴う研究時間の減少について述べている」との指摘があり日頃の実感に近い調査結果が確認されています。

ところで「平成22年版科学技術白書」(本年6月刊)でも上述の調査を取り上げ、基礎研究の減少に危惧する見解が示され、さらに踏み込んで「基礎研究は人類の英知を生み知の源泉となり、さらに、イノベーションの源泉となる知識を創出する。多様性を増し、急速に変化し続ける現代社会において、基礎研究の振興は人類活動の基盤となるすべての科学・技術の源として重要な役割を担うものであり、その重要性は今後も一層高まっていく」と述べています。科学技術庁発足2年後に出された「昭和33年度版科学技術白書」以来、「科学技術白書」がこのような点を指摘するのはとても珍しいことといえますので、基礎研究や基礎科学、科学技術、科学・技術、学術などの用語法を、機会を見て検討することにします。I & D

(注:図のNは回答者数。回答の仕方は、最もふさわしいから最もふさわしくない、を6段階に分割して、適当と思う段階を選択させるというもので、定性的、主観的なアンケート回答を定量的に処理するために指数化したものになっています。「平成22年版科学技術白書」より。) 

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