張先駿さんらが 1分子励起-蛍光分光法による光合成タンパク質のエネルギー移動の観察法を発表しました。

1分子励起-蛍光分光法による光合成タンパク質のエネルギー移動の観察


【発表のポイント】
・Photosystem I (PSI)では、チラコイド膜に埋め込まれた光合成反応を起こる重要な色素タンパク質である。
・自作した低温光学顕微鏡でPSIの1分子励起-蛍光分光法の測定法を確立できた。
・1分子の励起スペクトルと蛍光スペクトルの同時測定による励起-蛍光の相関性を解析することが可能になる。


【概要】
2014年のノーベル化学賞の対象となった1分子分光法では、1分子の蛍光信号を検出し、信号の揺らぎを利用して分子の構造変化を評価することが可能になる。しかし、この手法は蛍光スペクトルしか検出されていなかった。蛍光強度の励起波長依存性である励起スペクトルの測定はまだ実現できていない。

東北大学理学研究科の張先駿さん(学際高等研究教育院 博士教育院生)、谷口凛さん(学際高等研究教育院 博士教育院生)、柴田穣准教授と叶深教授、静岡大学の長尾遼准教授、東京理科大学の鞆達也教授、名古屋大学の野口巧教授らは、自作した低温光学顕微鏡 (図1A)を使用して1分子励起-蛍光分光法(Single-Molecule Excitation-Emission Spectroscopy;SMEES)の開発を成功にした(図1B)。張先駿さんたちは、SMEESを用いて光合成の重要な色素タンパク質のPhotosystem I (PSI)の励起スペクトルと蛍光スペクトルを初めて同時に取得できた。PSIの励起スペクトルは、色素分子の間の励起エネルギー移動の情報を提供できる。大量のPSI分子の励起-蛍光スペクトルを解析したことで、異なる蛍光波長範囲の励起スペクトルは時間的に揺らいでいることが観察できた。これらの結果は、PSIタンパク質内での励起エネルギー移動の経路の変化がタンパク質の構造変化に影響されることを示唆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. (A) 研究室で自作した低温顕微鏡の構造図。この顕微鏡は様々な波長を持つ線状レーザーを使って、低温の励起スペクトルを効率的に取得することができる。(B) 1分子励起-蛍光分光法の説明図。開発した低温顕微鏡によって、単一PSI色素タンパク質の測定が行える。測定したデータは二次元の励起-蛍光マトリックス (2D-Excitation-Emission Matrix; 2D-EEM)の形で保存されるので、1分子の励起スペクトルと蛍光スペクトルを同時に取得することが実現できた。さらに、2D-EEMを解析すると1分子内でのエネルギー移動の経路の変化を観察することが可能である。

 

本研究成果は、物理化学の専門誌のThe Journal of Physical Chemistry Bに2024年3月8日付で掲載され (On line version)、JST挑戦的研究支援プロジェクトとJSPS特別研究員の経費による支持された。

【論文情報】
題目:Access to the Antenna System of Photosystem I via Single-Molecule Excitation-Emission Spectroscopy
著者:Xianjun Zhang,* Rin Taniguchi, Ryo Nagao, Tatsuya Tomo, Takumi Noguchi, Shen Ye, Yutaka Shibata*

 (* Corresponding author)
著者情報:張先駿* (東北大・院・理学), 谷口凛(東北大・院・理学), 長尾遼(静岡大・院・農学), 鞆達也(東京理科大・教養教育研究院), 野口巧(名大・院・理学), 叶深(東北大・院・理学), 柴田穣*(東北大・院・理学)
雑誌:The Journal of Physical Chemistry B
doi: https://doi.org/10.1021/acs.jpcb.3c07789

参考:化学専攻 有機物理化学研究室(http://sub.web.tohoku.ac.jp/orgphys/
   XianJun ZhangさんのHP (https://zxj5724090.wixsite.com/zhang)