林 真貴子さんらの論文がプレスリリースされました。

「毒を以て毒を制す」悪性腫瘍の治療法
逆転の発想による治療抵抗性腫瘍の新しい治療戦略


【発表のポイント】
・抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示す腫瘍に対する新しい治療戦略の有効性を、マウスを用いた実験で実証しました。
・転写因子※1Nrf2の活性化を伴う治療抵抗性※2の腫瘍に対して、周囲の正常細胞のNrf2を活性化させることで、腫瘍の進行を抑制できることを明らかにしました。
・転写因子Nrf2の活性化は正常細胞を防御する役割もあり、副作用の少ない治療法になると期待できます。

【概要】
転写因子Nrf2の活性化は、肺がんや食道がんなど様々ながんで見られ、がん細胞に抗がん剤や放射線に対する治療抵抗性を獲得させることで患者の予後を悪化させます。このようながんに対して、がん細胞のNrf2を抑制する治療法が開発されていますが、副作用の心配もあり、現在はまだ実用化されていません。
元博士研究教育院生の林真貴子さん(現NYU Langone Medical Center勤務)は、東北大学東北大学大学院医学系研究科の鈴木未来子准教授、山本雅之教授らと共に、がん細胞のNrf2を抑制するのではなく、がん周囲の正常細胞(特に免疫細胞)においてNrf2を活性化させることで、がんの進行を抑制できることを、マウスを用いた実験で実証しました。Nrf2の活性化は正常細胞を防御する役割もあるため、副作用の少ない治療法になると期待されます。
今回の研究成果は、日本時間2020年7月8日に米国癌学会の学術誌「Cancer Research」のオンライン版で公開されます。

【図】 周囲の正常細胞におけるNrf2活性化による腫瘍抑制効果
野生型マウスにNrf2活性化腫瘍を作らせると、腫瘍が増大する(左)のに対し、
全身でNrf2を活性化させたマウスでは腫瘍が抑制される(右)。

【用語解説】
※1 転写因子
DNAに結合し、遺伝子の発現を制御するタンパク質の総称。
※2 治療抵抗性
標準的な治療を行っても、効果がみられないこと。

詳細(プレスリリース本文)