【海外研究集会発表支援プログラム報告】柴田暁貴さんが SYNC 2024 にてポスター発表をしました。
◇発表者◇
柴田 暁貴
物質材料・エネルギー領域
博士研究教育院生3年
工学研究科 バイオ工学専攻
◇学会名称◇
SECOND SYMPOSIUM FOR YOUNG CHEMISTS (SYNC 2024)
◇開催地◇
ローマ、イタリア
◇開催期間◇
2024年6月24日 ~ 2024年6月28日
◇発表題目◇
Fabrication of intracellular releasing induced prodrug nanoparticles by hydrogen peroxide reaction
◇発表内容◇
現在のがん研究では、がん細胞内に豊富な因子でのみ薬物を放出できるプロドラッグに対して、腫瘍集積性が向上するナノ粒子化を行ったプロドラッグナノ粒子を開発することで、副作用を軽減する取り組みが行われている。プロドラッグナノ粒子は、がん細胞へ到達前には薬物を放出せず、到達後にのみ薬物を放出することが求められ、これまでに多くの研究でこの要件を達成したナノ粒子が報告されている。しかしながら、その研究から臨床応用へと進んだ例は、ごくわずかである。これは、がん細胞の環境を模した研究室レベルでの実験と実際の生体内の環境における薬物放出性に違いがあることが考えられる。したがって、プロドラッグナノ粒子が、がん細胞内でどのように薬物を放出しているかを詳細に解明することが急務である。
そこで本研究では、がん細胞内に豊富な因子として過酸化水素(H2O2)に着目し、H2O2のみで薬物が放出されるプロドラッグナノ粒子を設計した。このプロドラッグナノ粒子をもって、これまで看過されてきたプロドラッグの「ナノ粒子」と「溶解」の状態における薬物放出性を評価し、がん細胞内における薬物放出機構の一端を解明することに成功したため、本内容を発表するに至った。
◇今回の発表によって得られた成果及び問題点◇
SYNC 2024では、様々な化学の分野を専門とする多くの若手研究者が参加しており、学際的な観点で非常に有意義なディスカッションを行うことができた。
本発表では、がん細胞内におけるプロドラッグナノ粒子の薬物放出機構について取り上げたが、ポスターの聴講に来たほぼ全ての研究者から、薬としての有効性や実用性に関する質問があった。この指摘された点から、薬理活性が低いという問題を抱える本研究を、薬として応用できる段階にまで進めることが強く求められていると再認識した。
◇今後の研究目標及び課題◇
本研究では、プロドラッグナノ粒子からの効果的な薬物放出には、細胞内での溶解が重要であることを明らかにした一方、薬として応用するには低い薬理活性を示した。したがって、今後、細胞内でのナノ粒子の溶解性を考慮した分子設計とし、高い薬理活性と低い副作用を両立した抗がん剤の開発を試みる。