丸岡奈津美さんらの論文がプレスリリースされました。

「負けて勝つ」ミジンコの長期共存戦略

【発表のポイント】
• 競争関係にある絶対単為生殖型(注1)ミジンコ種の2集団が、山地湖でなぜ長期共存できるのか、9年に渡る調査と実験により明らかにしました。
• 競争劣位集団は競争相手の増加を察知し、集団が全滅する前に休眠卵(注2)をすばやく生産していました。一方、競争優位集団は休眠卵生産の時期が遅れるため、休眠卵生産前に魚などに食われてしまう可能性がありました。
• 競争劣位集団は短期的な競争に負けて一時的に排除されたとしても、休眠卵を生産することで集団の長期的な存続を可能にしていることがわかりました。

【概要】
競争と共存の解明は、生物学の重要課題の1つです。絶対単為生殖型の生物種は独立した複数の集団を形成しますが、生活に必要な資源が似ているため、互いに競争関係にあり、棲み分けなければ長期共存は不可能と考えられてきました。
東北大学大学院生命科学研究科の丸岡奈津美博士(現:宇都宮大学 博士研究員、元博士研究教育院生)と占部城太郎教授(現:名誉教授)らのグループは、9年間に渡る山地湖での調査と実験により、絶対単為生殖型ミジンコ種の2集団が、一方が他方を排除する強い競争関係にあるにもかかわらず、長期的に共存していることを発見しました。さらにその共存は、生息場所や季節のすみわけではなく、競争に負けてしまう集団が競争相手の増加を察知し、排除される前に休眠卵をすばやく生産することで実現していることを明らかにしました。
休眠は不適な季節を乗り切るための戦略と考えられてきました。本研究は、それだけでなく、競争を回避するためにも休眠を利用していることを動物で示した初めての研究です。本研究成果は2024年4月8日に国際誌Functional Ecologyで公開されました。

図1. 畑谷大沼での調査風景とミジンコ(Daphnia cf. pulex)JPN1・JPN2集団の個体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【用語解説】
注1. 絶対単為生殖型
単為生殖とは雌が単独で子を残すことですが、絶対単為生殖型の生物では有性生殖は行わず、単為生殖のみで子を残します。こうした生活環を持つ種は植物や爬虫類、動物プランクトンなど広い分類群で見られます。一般的にミジンコ属は有性生殖と単為生殖をどちらも行う生活環を持ちますが、日本に生息する本種Daphnia cf. pulex(和名:ミジンコ)は絶対単為生殖型であることがわかっています。
注2. 休眠卵
ミジンコ属が休眠のために作る卵のことです。ミジンコは環境の良い時には、すぐに発生の進む「急発卵」と呼ばれる卵を作り、個体群を増殖させます。一方、環境の変化に応じて作られる休眠卵は、植物の種子のように耐乾性のある殻に包まれており、すぐには孵化しません。休眠卵は土壌中に維持され、環境が好転すると孵化し、再び個体群を形成します。

詳細(プレスリリース本文)