倉持円来さんらの論文がプレスリリースされました。

タンパク質の品質管理を担う酵素を高活性化する低分子を開発
アルツハイマー病、II 型糖尿病などに対峙する新しい創薬戦略

 

【発表のポイント】
●生体内でタンパク質の品質管理を担う Protein Disulfide Isomerase (PDI) ファミリー酵素(注1)の触媒活性を増強させる低分子 pMePySH を見いだしました。
●血糖値を下げるインスリンの生合成に本分子を用いることでPDI ファミリー酵素の触媒速度が最大4 倍となり、収率の向上に成功しました。
● PDI ファミリー酵素の機能低下によって引き起こされるパーキンソン病、アルツハイマー病、II 型糖尿病などの創薬につながると期待されます。

【概要】
 PDI ファミリー酵素は生体内でタンパク質の品質管理を担う酵素のグループです。本酵素の機能が失われることと、構造異常タンパク質が引き起こすパーキンソン病やアルツハイマー病、II 型糖尿病などのミスフォールディング病(注2)との関わりは深く、本酵素の活性亢進剤は新たな治療戦略に貢献することが期待されていました。
 東北大学大学院生命科学研究科の倉持円来氏(学際高等研究教育院生、博士後期課程学生)、東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹准教授、東京農工大学大学院工学研究院の村岡貴博教授らの研究グループは、新しいアプローチによる薬剤開発によって、PDI ファミリーの酵素活性を亢進する化合物を示しました。本分子によってPDI ファミリー酵素は、最大4 倍の触媒速度を達成しインスリンなど幅広い基質の生産収率向上に成功しました。この成果は、PDI ファミリー酵素の機能低下によって引き起こされるミスフォールディング病の治療において、全く新しいアプローチとなる可能性が期待されます。
 本研究成果は、英国化学会誌Chemical Communicationsにて、2024年6月4 日付で公開され、また同誌のInside Front Cover に採用される予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 



図1. 本研究の概要。

新規レドックス分子pMePySH は、PDI ファミリー酵素の活性、および天然型インスリンなどの生産量を増大させることができます。これは、PDI ファミリー酵素の機能低下によって引き起こされるミスフォールディング病の治療アプローチとして期待できます。

 

【用語説明】
注1. Protein Disulfide Isomerase (PDI) ファミリー酵素
   タンパク質内ジスルフィド結合形成を伴う立体構造形成(酸化的フォールディングという)を触媒する役割を担う酵素群である。タンパク質は天然型の
       立体構造を獲得して初めて機能発現するため、タンパク質の品質を管理する上で極めて重要な酵素群である。
注2. ミスフォールディング病
   ミスフォールドタンパク質(不良化タンパク質)の蓄積が起因する疾患のことである。パーキンソン病やアルツハイマー病などがあげられる。

詳細(プレスリリース本文)