【海外研究集会発表支援プログラム報告】岩村悠真さんがKEYSTONE SYMPOSIA にて口頭発表をしました。

◇発表者◇
 岩村悠真 
 生命・環境領域
 博士研究教育院生2年
 医学系研究科 医科学専攻

◇学会名称◇
 KEYSTONE SYMPOSIA
 Hypoxia: From Basic Mechanisms to Emerging Therapies
◇開催地◇
 KERRY, IRELAND

◇開催期間◇
 2023年5月28日 ~ 2023年5月31日

◇発表題目◇
 HIF induces erythropoietin expression in embryonic neural cells in a developmental stage-specific manner

◇発表内容◇
エリスロポエチン(EPO)は赤血球造血に必須であり、EPO産生は生体の腎臓において低酸素応答的に活性化する低酸素誘導性転写因子(HIF)2⍺によって制御されている。我々は過去に、妊娠中期頃の胎仔における神経上皮と神経堤に存在する神経系EPO産生(NEP)細胞が一過的にEPO産生を行い、卵黄嚢で開始する最初の赤血球造血を促進することを発見した。本研究は、最初の造血発生機序について理解を深めるため、NEPにおけるEpo遺伝子発現制御機構の解析を行った。まず、胎生9.5日頃の神経上皮においてNEP細胞がEpo遺伝子を発現することを確認し、HIF2⍺を共発現していることを同定した。また、マウス胎仔の神経組織をHIF活性化剤と共にin vitroで培養するとEpo遺伝子発現が上昇した。この発現誘導はHIF2⍺阻害剤の追加によって阻害されたが、基礎レベルの遺伝子発現は遺伝的および化学的なHIF2⍺の不活性化によって影響されなかった。胎生11.5日目以降のNEP細胞に由来する神経系細胞からは、Epo遺伝子発現とその誘導はほとんど検出されなかった。これらはNEP細胞におけるEPO産生がHIF2⍺によって誘導されることを示しており、妊娠中期頃に形成される子宮内の低酸素環境がシグナルとして造血を誘導することがわかった。

◇今回の発表によって得られた成果及び問題点◇
低酸素応答研究はPHD-HIF-VHL経路を中心として展開されている。一方、近年では、ノーベル生理学・医学賞を受賞したPeter J. Ratcliffe教授がご講演されていたように、既存の経路とは異なる新規の低酸素応答経路の同定と解析に潮流が移り変わってきている。実際、講演の半数は探索的研究から得られた新規の低酸素応答経路の解析に関していた。新規のHIF制御因子を同定されたPaul Grevitt先生とポスター発表時に議論した機会から、自身の成果においても新規因子の寄与が示唆されている。したがって、今後の研究発展のためにも得られた知見を基盤として包括的な解析を行う必要がある。

指導教授とキラーニー国立公園にて

◇今後の研究目標及び課題◇
所属研究室の競合であるVolker H. Haase教授と議論したように、妊娠中期頃の胎仔においてEPO産生を行うNEP細胞の細胞運命は興味深い。赤血球造血を促進するEPO産生は、NEP細胞の後に肝臓の肝実質細胞・腎臓の間質線維芽細胞と、個体発生の進行に伴い異なる細胞によって行われる。他方、NEP細胞は神経堤細胞でもあることから、肝もしくは腎発生に関与し、肝・腎EPO産生細胞へと派生する可能性がある。既に、EPO産生細胞を特異的に蛍光タンパク質で標識できる遺伝子改変マウスを用いた発生学的解析を進めており、早急な成果報告を目指して今後一層研究に邁進する予定である。