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概要

Co47

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4702細胞はリン脂質膜というあぶらの膜で包まれており、リン脂質は生体内に千種類以上存在することがわかっています。組織や細胞ごとに異なった組成のリン脂質膜が細胞を包んでいることで、細胞がそれぞれ固有の機能を持てるようになります。しかし、リン脂質の産生酵素は未だ同定されていないものが多く、リン脂質を欠失させるなどの解析が困難だったため、どのようなリン脂質がどのような機能を持つのかの全体像は明らかになっていませんでした。私たちの研究室では最近、ステアリン酸(炭素数18、二重結合数0 の脂肪酸)が結合しているリン脂質の産生酵素としてLPGAT1 を同定しました。そこで、ステアリン酸含有リン脂質の機能を明らかにするため、ステアリン酸含有リン脂質が産生されないLPGAT1 の遺伝子欠損動物の解析を行うこととしました。遺伝子欠損マウスは生まれにくく、寿命が短かったため個体数が確保出来ず解析が困難でした。そこで、産仔数の多いゼブラフィッシュを用いることとしました。ゼブラフィッシュは体調2 ? 3cm 程の小型淡水魚で、ヒトとほぼ同じLPGAT1 遺伝子を持ちます。ゼブラフィッシュを用いた解析から、雄性不妊傾向を示すことが明らかとなりました。遺伝子欠損ゼブラフィッシュのオスを交配に用いた時のみ、未受精卵が一部出現しました。そこで精子を回収すると、不動精子の割合が多く、一部の精子に奇形が生じていることがわかりました。また精子の脂質解析を行った結果、ステアリン酸を含むホスファチジルエタノールアミンというリン脂質が顕著に減少していると分かりました。現在、ステアリン酸を含むホスファチジルエタノールアミンが精子の運動にとって重要なのではないかと考え、精子にこの脂質を戻して精子の運動能が向上するかを検証中です。外出がはばかられる昨今、宅配やデリバリーを利用している人も多いでしょう。この便利な暮らしはロジスティクスが支えています。ロジスティクスは、モノを運ぶ物流に加え、製造・保管・原料調達などを管理し最適化することを指すビジネス用語です。実はこれは我々の細胞の中でも重要な概念です(画像左上)。というのも、細胞内のタンパク質などの分子の生産・輸送は高度に最適化されているからです。私は、意思を持たない分子たちがどのようにこれを達成しているのか、その仕組みの理解を目指し研究を行なっています。研究には線虫C.elegans の神経内ミトコンドリア輸送を用いています(画像右上)。線虫は体が透明で内部分子の挙動を生体内で観察可能なモデルです。神経細胞は情報伝達のために突起構造を有する物質輸送への依存度が高い細胞です。エネルギー生産に重要なミトコンドリアは、内部のエネルギー需要に合わせて必要箇所に輸送されます。ミトコンドリア輸送を指標に、ロジスティクスの破綻で生体にどのような影響が出るのかを包括的に捉えることを目指しています。線虫のとある神経でミトコンドリアを可視化すると、野生株では細胞体でのミトコンドリアのネットワーク構造や神経突起内への輸送が見られました(画像左下)。このような線虫に薬剤で遺伝子変異を誘発し、輸送に異常がある個体を選別しました。そうして得られたのがslc-25A46 遺伝子変異株です。この株ではミトコンドリアが断片化し輸送が低下します。slc-25A46 遺伝子はミトコンドリアの大きさを制御する遺伝子で、断片化は一般的に機能が低下した粗悪なミトコンドリアのサインです。すなわち、神経細胞にはミトコンドリアの質を形や大きさで見極め、輸送の可否を決めるようなメカニズムがあると考えています(画像右下)。この遺伝子はヒトにも存在し、神経疾患の原因遺伝子として報告があります。今後の研究で疾患発症メカニズムの理解にも繋がるのではないかと期待しています。「特定の脂質が精子の運動能力を向上させる…??」「 線虫をモデルとした神経内ミトコンドリア輸送の研究ー細胞内ロジスティクスの理解に向けてー」柴田 剛明生命・環境領域博士研究教育院生2年薬学研究科生命薬科学専攻小日向 寛之生命・環境領域博士研究教育院生2年生命科学研究科脳生命統御科学専攻研究教育院生の研究内容紹介