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概要

Co46

学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.4603ケイ素は炭素と同じ14 族元素であり、ケイ素が炭素と同じ形式の化合物を形成しうるのか?という問いは、19 世紀にケイ素が元素として認識されて以来、追究され続けている。なかでもケイ素―酸素二重結合化合物(Si=O 結合化合物)は、有機化合物において一般的かつ身近に存在する炭素―酸素二重結合化合物(C=O 結合化合物)であるケトンのケイ素版として、ケイ素化学の創成期より探求されてきた。しかし、安定なC=O 結合化合物とは大きく異なり、Si=O 結合化合物は高度に分極しているために容易に重合してしまう(この重合体は有機ケイ素高分子シリコーンとして知られる。図1a)。そのため、100 年以上にわたってSi=O の合成と単離(安定に取り出すこと)が難しい課題であった。21 世紀になり、Si=O 結合の特徴である分極を軽減し安定化する工夫(電子的安定化)によってSi=O 結合を持つとされる化合物の合成と単離がなされた(図1b)。しかし、電子的安定化が無く本来の分極を有した“純粋なSi=O 結合”を持つ化合物の合成と単離は達成されておらず、ケイ素化学において究極の合成目標の一つであった。本研究では、反応性の高いSi=O 結合部分を緻密な分子デザインにより立体的に取り囲むことで重合を防ぎ、本来の高度な分極を有した純粋なSi=O 結合化合物“シラノン”(有機化合物ではケトンに相当する化合物)の合成と単離を世界で初めて達成した(図1c)。そして、その分子構造やSi=O 結合固有の反応性などを明らかにした(図1c 右)。多能性幹細胞が、ヒトの身体の中に自然に存在することをご存じですか?多能性幹細胞とは、三胚葉からなる体中のあらゆる細胞になる能力をもつ細胞です。代表的なものはiPS細胞やES細胞ですが、どちらも人工的に樹立された細胞で、無限増殖し、腫瘍形成能をもちます。腫瘍性がなく、多能性だけをもつ細胞があれば、再生医療により簡便に利用できる夢の幹細胞と言えるでしょう。2010年、ヒトの体の中にそんな夢の細胞があることが報告されました。Muse細胞という組織修復性生体内多能性幹細胞です。Muse細胞のユニークな能力のひとつが、体の中の傷害シグナルを受け取って、傷ついた組織に遊走し、組織を修復することです。この能力によって、Muse細胞は日々少しずつ傷付いている体全体を総合的にメンテナンスし、恒常性を維持していると考えられています。しかし、日常的でない大きな傷害、例えば、心筋梗塞や脳梗塞を修復するとなると、自前のMuse 細胞だけでは足りません。こんな時は、Muse細胞を点滴で投与すると、自前のMuse 細胞と同じメカニズムで傷害を修復することが分かっています。この方法で、臨床現場では、急性心筋梗塞や脳梗塞などの疾患について治験が行われています。ところで、Muse 細胞は、ヒトだけが進化の過程で特別に得た細胞でしょうか?哺乳類ではヒト以外にもマウス、ラット、ウサギ等で報告されていることから、より下等な脊椎動物にも存在し、進化を通して維持されてきた細胞である可能性が考えられました。例えば、Muse 細胞と、両生類の再生に寄与する細胞は、傷害組織に遊走し組織を修復する、腫瘍形成能がない、という点で類似しています。これまで哺乳類以外でMuse 細胞の報告はありませんが、例えば両生類のMuse 細胞が見つかれば、ヒトと両生類のMuse 細胞の比較が可能になります。再生できないヒトと再生できる両生類で、Muse 細胞の性質や局在に違いはあるのかなどが分かるかもしれません。そこから、ヒトMuse 細胞の修復活性を高める要因を探し出し、サイトカインなどの薬剤を使用したMuse 細胞の組織修復活性の亢進が可能かを明らかにすることが、本研究の目的です。「 純粋なケイ素-酸素二重結合をもつケイ素版ケトンの合成と単離」「 カエルMuse 細胞の探索から、修復性多能性幹細胞Muse 細胞の修復活性向上に迫る」小林 良物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年理学研究科化学専攻山口 理奈生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻研究教育院生の研究内容紹介図 (A)Muse細胞の特徴 (B) 脊椎動物進化と再生能力