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概要

Co45

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4506近年、宇宙工学技術の小型・高性能化に伴い、100kg 以下の超小型人工衛星の利用が世界規模で加速しています。その用途は多種多様で、多数の群衛星による全球常時リモートセンシングの実現や、最先端の観測装置を用いた科学探査など、実用かつ挑戦的なミッションに利用されています。一方、大型衛星と比較すると衛星としての基幹機能が未成熟で、ミッション遂行能力の低さに課題があります。所定のターゲット( 制御目標) に対して衛星の運動を適切にコントロールする「軌道・姿勢制御」は、種々のミッションを遂行するために必須の機能ですが、搭載リソースが制限された超小型衛星では十分な機能を発揮できません。そのため、システム構成や制御ロジックなどの工夫によってハードウェア上の制約をカバーし、運動制御能力の底上げを図る努力が必要となります。私は、超小型人工衛星に適用可能なスラスタ( 推進装置)制御技術の高度化に関する研究に取り組んでいます。スラスタを用いた軌道・姿勢制御が可能になるとミッションの幅が劇的に広がりますが、超小型衛星に対しては要求スペック(重量、電力、計算リソースなど) の高さゆえに積極的な利用が困難でした。本研究では、不均等に配置された4個のノズルを有する小型スラスタによって超小型衛星の軌道・姿勢を自律的に制御するアルゴリズムを設計しました。複数の姿勢センサ計測値を用いた高精度姿勢決定手法に加え、PID 制御による姿勢フィードバック制御、ノズル選択テーブルを用いたシンプルで適応性が高い推力分配則を組み合わせることで、姿勢制御誤差± 5°以内を維持しつつ、持続的な加速度印加により90 分間で約1km の軌道高度変更を達成可能とする機能を実現しました。本研究で開発した制御技術は、実際の超小型衛星を使って宇宙実証を行います。私たちの研究グループは宇宙ベンチャーの株式会社ALEと共同で70kg衛星「ALE-2」を開発し、2019 年12 月に打ち上げました。この衛星は任意の時刻・地点にて人工流れ星を発生させることで、地球高層大気で起こる物理現象を解明することをミッションとしており、その実現には適切な軌道変更の機能が必須となります。現在は「ALE-2」によるスラスタ制御実験を進めている最中であり、実践的ミッションへの拡張も計画しています。私は、2 つの異なる強磁性体を薄い絶縁層で挟んだ、磁気トンネル接合(MTJ) の磁化方向の制御に関する研究を行っています。MTJ は、2 つの強磁性体のうち、N/S の向き( 磁化方向)が磁界や電流で制御可能な自由層の磁化方向をそれぞれ 「0」 と「1」 とすることで、情報保持に電源を必要としない、不揮発メモリとしての応用が期待され、スピン移行トルク不揮発性磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)として、現在1 GBit級メモリへの量産が進められています。応用上の理由から、MTJ の自由層の磁化の向きは膜面垂直方向( 垂直磁気異方性) が望ましく、現在主流となっているMTJ は、界面の効果( 界面磁気異方性) を利用し、垂直磁気異方性を実現しており、十分な不揮発性を維持しつつ直径20 nm 程度まで微細化可能と見込まれていますが、さらなる微細化を実現するためには、新たな材料探索等が必要だと考えられています。本研究では、従来のMTJ では埋もれていた形状の効果を利用した、形状磁気異方性MTJ に着目しました。形状磁気異方性は電磁気学から導かれ、棒磁石のN/S の向きを決めています。形状磁気異方性は、磁石の縦横比が大きいほど強くなるので、形状磁気異方性MTJ は直径20 nm 以下の更なる微細化に適しており、また材料を選びません。実際に形状磁気異方性MTJ を作製し測定を行ったところ、従来のMTJ( 直径約16 nm) は150 ℃で不揮発性を失いますが、形状磁気異方性MTJ は、さらにサイズが小さい、直径約5.0 nm の素子においても150 ℃で不揮発性を維持することが分かりました。今までMTJ は、主に室温で研究されてきましたが、このように高温で動作する極微細MTJ の磁化制御に関する理解が深まれば、極微細MTJ の自動車用途での応用可能性が拓けると期待されます。今後は、より実用的な電流を用いた磁化反転の実験を行い、実験的に磁化の挙動を理解することで、ナノの世界に実現する棒磁石を高効率に制御する指針を打ち立てたいと考えております。「 超小型人工衛星の軌道制御ロジックの開発とミッション応用」「 極微細な棒磁石の磁化方向制御」佐藤 悠司情報・システム領域博士研究教育院生3年工学研究科航空宇宙工学専攻五十嵐 純太デバイス?テクノロジー領域博士研究教育院生3年工学研究科電子工学専攻図1 (a) 界面磁気異方性MTJ の模式図 (b) 形状磁気異方性MTJの模式図 (c) 直径16 nmを有する界面磁気異方性MTJの測定結果 (d) 直径5 nmを有する形状磁気異方性MTJの測定結果