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概要

Co45

05学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.45恐怖記憶の過度な固定化や恐怖記憶の消去不全が心的外傷後ストレス障害(PTSD) の病態を説明できるモデルと考えられます。PTSD には根本的な治療法がなく、病態解明と有効な治療薬の開発は重要な課題です。PTSD の病態形成には免疫系の機能異常に関与することが報告されています。一方、脳内には神経細胞以外にグリア細胞が存在し、中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリアは、病態下では液性因子( 炎症性サイトカイン, 補体, 栄養因子など) の産生・放出を引き起こすことが知られています。私達はPTSD モデルマウスを用い、ミクログリアが産生した炎症性サイトカインTNF αが恐怖記憶の形成および持続に関与し、TNF αの抑制が恐怖記憶の消去を促進することを見出しました。本研究では脳内の免疫担当細胞であるミクログリアの機能に着目し、PTSD の病態メカニズムを明らかにするためにミクログリア特異的TNF α欠損マウス(CX3CR1Cre+;TNF- α flox/flox) を用い、恐怖条件付け学習テストにより恐怖記憶の形成・消去に対する影響を検討しました。さらに、行動実験の終了後、マウスの脳からミクログリアおよびニューロンを単離し、ミクログリアにおける神経伝達物質の発現も調べました。恐怖条件付け学習テスト後にCX3CR1Cre+;TNF- α flox/floxマウスからミクログリアを単離し、マイクロアレイおよびGene Ontology 解析を行った結果、恐怖記憶の形成・消去の各段階において、カテゴリ「transmission of nerveimpulse」に属する遺伝子群が最も変動したことを確認しました。さらに、恐怖記憶の消去に伴ってこれらの遺伝子発現のパラレルな変動が確認されました。従来、活性化したミクログリアは細胞膜に存在する数多くの神経伝達物質受容体の変化によってミクログリア自身の液性因子の放出機構を制御することが知られています。これらの結果から、ミクログリアが炎症性サイトカインだけではなく、神経伝達物質を介してニューロンとの恐怖記憶の形成・持続に重要な役割を果たしていることが示唆されました。本研究の成果は、PTSD の発症や病態メカニズムの理解に大きな手がかりを与えるとともに、PTSD の治療法、診断法や発症予防法の開発にも寄与することが期待されます。絹糸といえば、衣服の素材を想像する方が多いのではないかと思いますが、実は二千年以上も前から医療用の縫合糸として用いられるなど、医療とのかかわりも深い材料です。私は、この絹糸とは少し組成の異なる生糸に着目しています。生糸は、金属イオンとの親和性が高いことで知られるセリシンに覆われているため、効率的に金属イオンを導入することができる可能性があります。そこで、本研究では、金属イオンを導入して生糸織物を高機能化し、医療用材料に応用することを目的としています。例えば、カルシウムイオンを導入すれば、病気や事故などで欠損した骨を再生するような織物を作ることができますし、銅イオンを導入すれば、感染症を未然に防ぐような抗菌織物を作ることができるのではないかと期待しています。また、医療分野で実績のある絹糸ではなく敢えて生糸を選択することには、上記に挙げた以外のメリットもあります。現在、生糸は工業的にあまり利用されていないことから、そのほとんどが様々な処理によって絹糸に加工されて市場に送られています。その生糸から絹糸に加工する工程において、生糸に含まれるセリシンが産業廃棄物として大量に捨てられているのです。本研究によって生糸やセリシンの有用性を示すことができれば、無駄をなくすことができるだけでなく、環境への負荷を軽減することにつながります。これまでの研究により、カルシウムや銅を導入した生糸織物の、骨形成能や抗菌性などが実験室レベルで次第に明らかになってきました。現在では、工学的手法による材料改質と生物学的手法による有効性評価という医工融合研究により、実際の医療現場でも実用性を発揮するような革新的材料の開発を目指しています。「 恐怖記憶の制御におけるミクログリアの役割」「 蚕の繭から作った織物の医療用材料への応用」坂井 舞生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻千釜 広己生命・環境領域博士研究教育院生3年医工学研究科医工学専攻