ブックタイトルクロスオーバーNo.43

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概要

クロスオーバーNo.43

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4304石器、とりわけ石を打ち欠いて作る打製石器は、人類にかなり長い期間利用されてきた道具の一つです。世界規模で言えば、猿人段階の約330 万年前から我々新人段階まで使用され、日本列島では遅くとも約3万5千年前の後期旧石器時代から8 世紀頃まで使用されてきました。つまり、人類の生活と密接に関わってきた道具であり、我々人類の発達・適応行動を研究する上で欠かせない対象であります。私の主な研究は石器の製作技術についてです。特に、約2 万~ 1 万5 千年前の細石刃という石器を専門にしています。細石刃はカミソリの刃のような形状の石器で、槍や銛など刺突具の刃に用いられたと考えられます(左図)。それまでの刺突具は一つの大きな石器を槍の先端に装着し、刃が欠けたら丸ごと取り換えていたのに対し、細石刃は角や骨で作った軸にいくつもはめ込み、刃が欠けた場合にはその一部の細石刃のみ取り換え可能という、メンテナンス面で非常に優れた石器でした。私はその細石刃を製作する基となる細石刃核という石器から、細石刃の製作技術を研究しています。細石刃にはいくつかの製作技術があり、それをもとに遺跡の時期や人類集団を区別して考えますが、当時ロシアから北海道、本州と伝播した湧別技法という細石刃の製作技術がありました。北海道や本州で発掘された湧別技法の細石刃核には、顕著な擦痕が観察されるものがあります(右図)。これはロシアではみられない特徴であり、北海道に入ったのちに生じた変化と考えられます。我々は、細石刃と細石刃核の詳細な計測、そして擦痕の顕微鏡観察と製作実験を通して、その擦痕が細石刃生産の効率化につながるものであると明らかにしました。ただし、この擦痕を施すという製作技術の変化がどのような要因によるものなのかについては明らかにできていません。当時の気候変動や資源環境の変化、様々な要因が考えられます。今後は、これらの要因についても検討していきたいと思います。近年、凝縮系物理学においてトポロジーと呼ばれる概念が重要になっている。トポロジーとは、元々数学の位相幾何学と呼ばれる分野で発展してきた、図形全体としての共通の性質を捉える概念である。例えば、位相幾何学ではコップとドーナツは、連続的に変形させることができるために同じものとして取り扱われる。一方で、それらとボールは異なるものとして扱われる。ここでこれらの図形を区別できる量は穴の数であり、これはトポロジカル不変量と呼ばれる。では、例えば固体中でトポロジカル不変量によって区別できる構造は、何があるのだろうか。その一つが左図に示すような電子のスピンを介して現れる「磁気スキルミオン」である。電子のスピンが作るトポロジカル不変量は、大雑把にスピンが作る立体角によって定義され、この特殊な構造は、電子のスピンが作る他の磁気的な構造とトポロジカル不変量が異なることから連続変形によって移り変わることができず、非常に安定であると考えられている。またこの電子のスピンがつくる非自明なトポロジーは、固体中での仮想的な磁場を与え、様々な興味深い現象を生み出してきた。本研究では、このトポロジカル的に保護された磁気構造である磁気スキルミオンの電流駆動に取り組んでいる。磁気スキルミオンは、捩れた構造であるために電流によって駆動する際に、マグナス力のような力を受け、電流方向に対して真っすぐ進むことができず、これが磁気スキルミオンの工学応用への妨げの根本的な課題となっていた。そこで本研究では、この斜め方向の駆動を抑制するために、”反強磁性”スキルミオンの誘起及びその電流駆動を試みている。反強磁性スキルミオンは、右図のように2 つの磁気スキルミオンが逆方向に結合しているような構造である。この構造を誘起することによって駆動の際のマグナス力が相殺されることが期待できる。反強磁性体に於いてどのようにこの磁気スキルミオンを誘起するか、どのような構造においてより効率的に駆動できるのかこのような点を実験的に明らかにすることを目的として研究を行なっている。「 石器に残る微細痕跡から製作技術を考える」「 トポロジカル的に保護された磁気構造の電気的制御」青木 要祐人間・社会領域博士研究教育院生3年文学研究科歴史科学専攻土肥 昂尭デバイス・テクノロジー領域博士研究教育院生3年工学研究科電子工学専攻左図 北海道タチカルシュナイ第Ⅴ遺跡出土の細石刃右図 細石刃核にみられる擦痕の顕微鏡写真