ブックタイトルクロスオーバーNo.43

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概要

クロスオーバーNo.43

03学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.432 型糖尿病はインスリン抵抗性とインスリン分泌不全による慢性高血糖を特徴とする代謝疾患です。インスリン抵抗性はインスリン分泌増加によって代償されますが、次第に膵β細胞の機能不全を来してインスリン分泌不全を生じ、高血糖を引き起こします。膵β細胞量はインスリン分泌量を規定する重要な要素であり、その機能的質量を変化させることによりインスリン需要に適応する能力を持っています。様々な刺激が膵β細胞の増殖を促進しますが、その中でもグルコース代謝はインスリン分泌を誘発するだけでなく、膵β細胞増殖シグナルのメカニズムとしても機能することが知られています。その一方、高濃度のグルコースへの長期間の曝露は膵β細胞の増殖能を抑制し、細胞量減少によるインスリン分泌の代償不全は糖尿病を引き起こします。この原因の一つとして、高血糖誘導性の慢性炎症によるβ細胞量調節機構破綻のメカニズムの存在が示唆されており、その詳細なメカニズムの解明は糖尿病の新たな治療戦略の分子基盤となり得ることが期待されています。グルコース応答性転写因子ChREBP は、膵β細胞の機能や増殖の重要な制御因子であることが報告されており、糖尿病の病態との関連が注目されています。しかしながら、膵β細胞におけるChREBP の転写制御の詳細な分子メカニズムについては未だ不明な点が多くあります。そこで、ChREBPを介した転写反応を制御する結合因子を同定し、その機能を解明することを目的として研究を行っています。現在までの研究により、ChREBP を介した転写活性を抑制する新規の転写制御因子を同定し、同因子はChREBP との相互作用を介して膵β細胞増殖を制御していることが明らかになりました。今後は同因子によるChREBP転写制御メカニズムの詳細や、糖尿病発症・進行の際のβ細胞障害への関与について明らかにするためにさらなる解析を行っていく予定です。抗体は2018 年ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学本庶佑特別教授が開発したニボルマブ( 商品名: オプジーボ、販売会社: 小野薬品) など様々な疾病への治療薬として利用されているバイオ医薬品です。抗体は特定の分子にのみ結合する機能を持つことができるため、特定の分子の機能を抑制したり、特定の悪性組織だけを対象に免疫反応を作用させたりすることで治療効果を示します。また、有機合成で作製された薬物を抗体に化学修飾させた抗体―薬物複合体(ADC) は、薬物をがん腫瘍など特定の組織にのみ届けることが可能であるため、副作用が強い薬物を利用して疾病を改善できる利点があり、現在までに4種類が販売され疾病の治療に利用されています。しかし、抗体は15 nmと体内では比較的サイズが大きいため腫瘍の深部などの細かい領域へ輸送させることが困難です。そこで、抗体の標的認識部位のみからなる3 ? 6 nm と小さい低分子抗体を作製することで腫瘍深部へ送達可能であることが既に報告されていることから、サイズを小さくすることで細かい領域への抗体の送達が可能になると考えられています。そこで私の研究では、「細かい領域への薬物輸送するための低分子抗体の利用」と「薬物を結合させるための配列最適化」を行っています。治療対象とする疾患は腎臓病です。腎臓には10 nm程度のフィルターがあるためサイズの大きい抗体では薬物輸送できず、薬物のみの投与では腎臓にとどまることができず速やかに体外に排出されてしまいます。従来のADC では、治療困難な標的に対して低分子抗体を利用することで治療が可能になると考えています。本研究で開発した低分子抗体を足場とした低分子抗体―薬物複合体と薬物結合部位を制御した低分子抗体を利用する事で革新的な治療薬が実現可能になると考えています。「 膵β細胞におけるグルコース応答性転写因子ChREBP の転写制御因子の探索」「 工学・医学・薬学の融合による低分子抗体を足場としたスマートな薬の開発」野呂 英理香生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科保健学専攻服部 修平生命・環境領域博士研究教育院生3年工学研究科バイオ工学専攻