ブックタイトルクロスオーバーNo.43

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概要

クロスオーバーNo.43

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4302知的障害は全人口に対して2-3% の推定有病率を有する広汎に見られる発達障害です。知的障害は発達期に発症し、知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害として定義されています。その発症原因としては、栄養不良や感染などの環境ストレス要因と遺伝子の変異の両方が知的障害を引き起こすことが報告されています。大規模ゲノム解析によって、ほぼ半数の症例で遺伝子の変異が特定されている一方で、どのようにこれらの遺伝子が知的障害を引き起こすかはほとんど明らかにされておらず、根本的な治療法は未だ確立されていません。CHAMP1 (Chromosome alignment maintainingphospohoprotein, CAMP) は、知的障害症例で変異が見られる遺伝子の1 つです。この遺伝子産物は、体細胞分裂中における染色体整列に必要な因子として私の所属研究室から報告されています。これまでに知的障害を持つヒトのCHAMP1 で見つかった変異は、遺伝性ではなく新規変異であり、CHAMP1 変異を有する症例の一部では、小頭症、顔面奇形、痙攣などの症状が確認されています。現在までにCHAMP1 変異の知的障害症例は50 例を超え、約1000 遺伝子あると考えられている知的障害を含めた発達障害原因遺伝子の中でも、TOP100 に入る変異の多さとして報告されています。そこで私はCHAMP1 ヘテロノックアウトマウスにおける脳の異常を解析し、知的障害モデルマウスとしての表現型が見られるかどうかを検証しました。CHAMP1 ヘテロノックアウトマウスの脳において、大きな形態異常は認めれられませんでしたが、マウスの行動解析(図1)では、軽度の記憶障害と鬱様行動を示しました。さらに遺伝子発現解析を行った結果、記憶を司る主要な部位の一つである大脳皮質において知的障害関連遺伝子の発現低下が認められました。これらの結果は、CHAMP1 ヘテロノックアウトマウスが知的障害のモデルマウスとなり得ることを示唆しており、現在は、細胞レベルでの知的障害発症機序の原因解明に取り組んでいます。私は、トポロジカル物質の角度分解光電子分光による電子状態の研究というテーマで研究をしています。トポロジカル物質とは、近年、数学の位相幾何学のトポロジカル数という概念を物質内の電子の状態に対して取り入れることによって新たに提案された物質群です。トポロジカル物質中では電子があたかも別の粒子のように振る舞うことが理論的に予言されており、この特殊な電子の存在がトポロジカル物質を特徴づけるとともに、既存の物質とは全く異なる電気的特性の発現を担うことが期待され、注目を集めています。私は角度分解光電子分光と呼ばれる実験手法を用いて、この特殊な状態の電子を直接的に観測し、新たなトポロジカル物質の発見やその性質解明を目指して研究を行っています。角度分解光電子分光は、紫外光を物質表面に照射して外部に叩き出された物質内の電子の運動量とエネルギーを精密に観測することで、物質内の電子の状態を直接的に観測することができる実験手法です( 図1(a))。外部に叩き出された電子を他の空気中の分子に衝突させることなく検出器に導くために、装置内部は地球成層圏程度の超高真空(10-8Pa 以下) に排気されています。これらの装置は研究室で独自に開発・改良されてきたものを使用しており、より高性能の角度分解光電子分光装置の開発も私の研究の一部を担っています。このような装置を用いて最近、我々はCoSi という物質が、その内部で電子が「スピン1 粒子」や「2 重ワイル粒子」といった特殊なスピン構造を持つ新粒子のように振る舞っている、新しいトポロジカル物質であることを明らかにしました( 図1(c))。これまでトポロジカル物質中で電子が他の素粒子のように振る舞うことは知られていましたが、今回我々が発見したCoSi 中の電子は真空( 宇宙空間) では存在し得ない新粒子のように振る舞っており、この状態に起因した様々な特異物性の探索が今後期待されます[1]。[1] D. Takane et al., Phys. Rev. Lett., 122, 076402 (2019).「 物質中で別の粒子のように振る舞う電子」「 知的障害の作用機序解明に向けての足がかり?CHAMP1 欠損マウスを用いたアプローチ?」高根 大地物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生2年理学研究科物理学専攻永井 正義生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻研究教育院生の研究内容紹介図1.(a) 角度分解光電子分光の模式図、(b) 東北大学内の角度分解光電子分光装置、(c) CoSi に対する角度分解光電子分光実験の結果と理論予想( 赤点線) を重ねた図。明るい部分が電子の密度が高いことを示しており、理論的に予測される各粒子の特徴と一致していることがわかった。