ブックタイトルクロスオーバーNo.42

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概要

クロスオーバーNo.42

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4206電場および磁場に偏りがある光は偏光と呼ばれ、電場・磁場の回転方向に偏りあるものが、とくに円偏光として知られています。右/左巻きどちらかの光を特異的に吸収・発光する材料は、次世代光電子材料として興味を持たれています。円偏光の吸収・発光の能力は、右偏光/左偏光の偏り度合いを示す非対称要素(g 値)で評価され、金属を含む物質でのみ高いg 値が実現可能とされ、有機分子は円偏光材料に向かないとされてきました。私は、最近、共同研究者らと共に、らせん性キラリティをもつ(P)( / M)(- 12,8) -[4]シクロクリセニレン([4]CC)が、吸収で0.167、発光で0.152 という驚異的なg 値(絶対値)を実現することを発見しました。従前までの有機分子の円偏光発光g 値の最高値は、1967 年に記録された0.035 でした。半世紀を経て、[4]CC は、この値を一桁も向上することとなったのです。さらに、[4]CC の発光量子収率が80%と高効率であったことは、有機分子が、将来、円偏光材料として活躍することを期待させるものです。この研究のなかで、高いg 値の秘密はキラル筒状に曲げられたπ共役系にあることを理論的に解き明かしています。円偏光の吸収/発光強度は、旋光強度R により決定され、R は電子/磁気遷移双極子モーメント(μ / m)、そして、それらのなす角θからR = ?μ?・?m?・cos θと決定されます。そして、通常の共役系有機分子では、μ とm がほぼ直交するため、cos θ ~ 0 となってしまいます。ところが、π共役系を筒状にすると、θ = 180°が実現でき、それによりcos θ項が最大の1 となります。さらに、筒状構造は、通常の有機分子では極小であったm を、異常なほど大きくします。その結果、R 値が極端に大きくなり、驚異的なg 値が実現されたのです。さらに、[4]CC 分子が、結晶固体中でキラルな二重螺旋状に並ぶことも見いだしています。私は固体でらせん状キラリティの相乗効果などの興味深い特性があるのではないかと想像しています。私の研究では球や円柱など基礎形状周りの空気の流れを実験と数値計算で調べています。エンジンルーム内まで再現した自動車周り流れの数値計算すら行われる昨今ですが、なぜ球周り流れが研究対象になるのか、それは圧縮性低Reynolds 数流れという特殊な条件を対象とするためです。この研究の目的は、固体粒子や液滴などの微粒子を含む高速流(圧縮性混相流)の高精度モデリングおよび圧縮性低Reynolds数流体力学そのものの理解です。混相流では微粒子の輸送や微粒子の流れ場への影響が関心事ですが、微粒子のサイズは非常に小さく一般的なサイズの流体機械や自然現象での混相流はマルチスケール問題です。故に、通常の混相流の数値解析では球周り流れの実験結果を元に構築したモデルにより粒子と流体の相互作用を簡便に評価します。過去の球周り流れの実験では実際の微粒子より遥かに大きな球を用いていますが、流体の粘性や速度、物体の大きさの関数であるReynolds数(Re)というパラメータを微粒子のそれと一致させれば流体力学的に相似となるため微粒子周り流れの特性が分かります。しかし、私が対象とする圧縮性混相流は高速流のため、Re 数に加えMach 数(M)という流体の圧縮性を表すパラメータも同時に合わせる必要があります。M数(流速)を下げずにRe 数を下げる必要があり、実験が難しく研究が進んでいません。実験が難しいなら数値計算、となりますが未知の領域での数値計算では計算負荷低減のためのモデルの精度が不明のため、Navier?Stokes 方程式をモデル化なしで解く必要があります。この場合、低Re 数の球周り流れといえど大型計算機を用いて数ヶ月、条件によっては非現実的なコストを要するため、実験は必要不可欠です。そのため、高精度数値解析に加え、直径0.3-2 mm の球周りの秒速500 m/s 程度の流れを1/10気圧程度の環境で可視化・計測しています。低圧環境かつ小さい物体の場合、流れ場の変動が非常に小さく観測データがノイズに埋もれるため、従来の実験方法を高感度化するだけでなく信号処理や統計的な手法を用いて流体現象の抽出を行い、これまでに流れ場の計測が行われていない領域の特性を調べています。「 キラル筒状分子の不思議」「 実験的・数値的研究による圧縮性低Reynolds数の球周り流れに関する研究」芳井 朝美先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科化学専攻永田 貴之先端基礎科学領域博士研究教育院生3年工学研究科航空宇宙工学専攻