ブックタイトルクロスオーバーNo.42

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概要

クロスオーバーNo.42

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4204人工知能(AI)の技術が著しく発展を遂げる昨今、我々が生活する日常空間や災害現場などにおいてロボットが活躍する日も近いのではと期待されています。しかしながら、そうしたロボットの実現にはいまだ大きな困難が伴っています。複雑かつ予測不能的に変化する実世界環境を移動する運動能力が欠如しているためです。一方で、動物はいかなる種であっても状況変化に応じて巧みに動き回ることができます。私の研究では、この動物を動物たらしめる運動生成の原理を理解することで、ロボット工学にブレイクスルーをもたらしたいと考えています。そこで私が着目している動物は、ムカデです。ムカデは、陸上では多数の脚を動かして歩くのですが、なんと水中では脚を折りたたみ胴体側部に沿わせ、ヘビのように胴体をくねらせながら泳ぐことができます。つまり、陸上と水中という質的に大きく異なる物理的環境の変化に対して、身体の使い方を劇的に変化させることで、効果的な推進を実現しているのです。このムカデの環境適応的な振る舞いにこそ、動物の柔軟な運動制御の本質が凝縮されているのではないかと考えています。現在、私は生物学・数理科学・工学を組み合わせた学際的なアプローチにより、ムカデの運動制御メカニズムの解明に取り組んでいます。具体的には、行動観察実験から運動制御の仕組みに関する仮説を数理モデル化し、その数理モデルをシミュレーションやロボットに実装することで、どの程度実際のムカデの振る舞いを再現しうるかを検証しています。これまでの研究では、ムカデが陸上と水中という異なる環境間を遷移する際の振る舞いから、脳による運動指令と末梢の感覚情報に基づくフィードバック制御の有機的な連関構造が明らかになりつつあります。カビは動植物といった生物から、風呂場の壁などの無生物まで、様々な固体表面に吸着して成長します。その吸着はカビの表面に存在する界面活性蛋白質ハイドロフォビンがカビと固体表面との間でハイドロフォビン膜を形成(自己組織化)し「糊」のような役割を果たすことで成り立っています。また、動植物の表面にはカビの感染を防ぐためのバリアとなる物質(ex. 植物の葉の表面に存在するクチンなど)が存在しますが、ハイドロフォビンはその物質を分解する酵素クチナーゼと相互作用して分解能を向上させることができます。このように、ハイドロフォビンはカビの感染機構に関わる重要な蛋白質です。しかし、ハイドロフォビンが固体表面吸着後に形成する自己組織化構造や生物学的機能については研究されてきていますが、自己組織化の分子機構の詳細は未だわかっていません。また、私たちはクチナーゼとハイドロフォビンの相互作用がイオン的相互作用であることをつきとめましたが、クチナーゼが固体表面上のハイドロフォビン自己組織化膜を通り抜けてその下にある固体基質(感染バリア)に到達する分子機構も未だわかっていません。そこで私は、カビの感染機構の解明のため、界面活性蛋白質ハイドロフォビンに着目し、ハイドロフォビンが固体表面に吸着する分子機構や自己組織化機構について研究しています。本研究により、ハイドロフォビンは固体表面との疎水的相互作用で吸着していることや、固体表面への親和性と自己組織化膜の形成過程はpH に大きく影響を受け、pH が塩基性だと親和性が減少し自己組織化膜も形成しにくいことを明らかにしました。現在は、自己組織化膜の形成機構の詳細を明らかにするため、ハイドロフォビンLangmuir 膜( 気液界面単層膜) の形成過程を解析しています。「 ムカデの歩行・遊泳から紐解く動物の適応的運動生成のカラクリ」「 カビが様々な場所にくっつけるのはなぜか?~界面活性蛋白質の 研究~」安井 浩太郎生命・環境領域博士研究教育院生3年工学研究科電気エネルギーシステム専攻寺内 裕貴生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科生物産業創成科学専攻