ブックタイトルクロスオーバーNo.42

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概要

クロスオーバーNo.42

03学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.42本研究は、末梢動脈疾患を対象とし、その診断や治療法へ応用可能な新たな技術概念の提唱を目指しています。末梢動脈疾患とは、脳梗塞や心筋梗塞といった動脈硬化関連疾患の一つで、手足に血行不良が生じる病気です。末梢動脈疾患に罹る患者さんは、他の動脈硬化関連疾患も併発しやすいため、末梢動脈疾患の診断や治療法を考えることは重要な課題です。末梢動脈が閉塞してしまうと、組織は酸素や栄養が不足する虚血状態になります。虚血組織では、虚血状態を修復するため、血流回復を促す血管構造の再構築が起こります。血管の再構築過程には、「もともと体に張り巡らされている側副動脈が拡張する動脈形成」と、「血管が新たに生えてくる血管新生」があります。本研究では、前者の動脈形成に着目し、動脈形成が起こる過程を定量的に解析することで、得られた概念を末梢動脈疾患の診断や治療の技術開発へ応用することを狙いとしています。末梢動脈疾患の動脈形成機構を解明するために、この疾病を模倣した下肢虚血モデルマウスを作製し、X 線CT や蛍光を活用したイメージングで血管構造変化を観察しています。虚血モデルマウスの血管をX 線CT で可視化すると、虚血組織においてコークスクリュー様に構造変化する血管構造変化が確認されます。なぜコークスクリュー様に血管が構造変化するのか? そのメカニズムを明らかにするために、構造変化した血管を形作る細胞の状態を病理学的手法で調べています。血管は複数の異なる種類の細胞で構成されていますが、細胞種によって血管拡張の際の応答性に違いがありそうなことがわかってきました。コークスクリュー様に構造変化を起こす要因が解明できれば、実際の末梢動脈疾患の治療において、どの血管にどのようにアプローチすべきか、具体的な医療情報を得ることに役立つと考えられます。このような取組みが、末梢動脈疾患の新たな診断や治療法の開発に結実することを期待しています。皮膚は最も身近な組織のひとつで、暑さや寒さ、衝撃などから体を守る働きを日常的に実感することができます。それらを実現するのは、皮膚内部に備わる神経や血管、分泌腺などさまざまな構造や機能ですが、本研究で着目したのは、最前線にある「表皮」です。表皮は細胞が積み重なってできた薄い膜のような組織で、厚さはわずか0.1mm 程度ながら、病原体や乾燥から体内を保護し生命を維持する「バリア機能」を担っています。表皮の中では、数十mV 程度の電位差「表皮電位」が発生していることが知られています。この電位差は、表皮が傷ついたり、バリア機能不全を起こしたりすると小さくなることから、皮膚の健康状態を測る目安になると期待できます。そこでまず、表皮電位を測るための専用のデバイスを作製しました。電位差は表皮の厚み方向に発生しているため、表皮の中と外とに電極をつないで測定します。皮膚への侵襲を最小限に抑えるため、「無痛注射針」として知られる市販の微小な注射針を電極に加工し、これを皮膚に1mm ほど刺すことで測定する方法を確立しました。デバイスを使って実際に測定してみると、健康な皮膚で数十mV の電位差があること、実験的に傷や乾燥肌のような状態を作り出すと電位差が小さくなってしまうことが確かめられました。現在までに、表皮が外部刺激に対して起こす反応をいくつか取り上げ、表皮電位を利用して評価することに取り組んでいます。皮膚を伸縮させる刺激は傷の回復に影響を与えるといわれていますが、表皮電位も刺激に応じて変化していることがわかりました。また、皮膚を赤い光で刺激すると傷ついたバリアの回復が促進されると報告されており、表皮電位の値から刺激条件による効果の違いを調べることができました。皮膚に電気刺激を与えた場合にもバリアの回復が促進されるといわれています。今後さらに研究を進め、電位測定デバイスに電気刺激機能を搭載した、新たなスキンケアデバイスの創製を目指しています。「 虚血性血管構造変化メカニズムの解明による末梢動脈疾患診断法開発への応用」「 皮膚の健康への電気的アプローチ」徳永 正之生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科保健学専攻阿部 結奈生命・環境領域博士研究教育院生3年工学研究科ファインメカニクス専攻研究教育院生の研究紹介