ブックタイトルクロスオーバーNo.41

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概要

クロスオーバーNo.41

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4106私は数学の代数的組合せ論と呼ばれる分野を専門にしています。代数的組合せ論はグラフや符号などの組合せ構造を行列を用いて代数的に理解しようとする学問です。グラフは頂点を辺で結ぶことによってできる組合せ構造で、辺のつながり方を成分が0と1の行列で表現した隣接行列を導入することによって数学的に解析することが可能になります。ここで一番重要なパラメータは隣接行列の固有値です。なぜなら、固有値はグラフを特徴づけるさまざまな要素を持っているからです。例えば、グラフの最大次数と呼ばれるパラメータは必ず最大の固有値より大きくなります。それ以外にも2 つ目に大きい固有値や、最小の固有値などにもグラフの特徴づけが分かっています。また、固有値が3 種類しかないような正則グラフを強正則グラフと呼び、重要な組合せ構造としてたくさんの解析、応用がされています。さらに、それを一般化した距離正則グラフや、グラフとは限らず行列によって定義されるアソシエーションスキームなどが知られています。特に、アソシエーションスキームはグラフだけではなく、組合せデザインや符号などを抽象化した概念として位置づけられています。私は、アソシエーションスキームなどの高度に抽象化された組合せ構造の研究をする一方で、それらの実用的な応用も同時に研究しています。数学では、抽象化された研究は実用性に乏しい傾向にあり、学術的な興味によって研究が成り立っている側面があります。しかし、私は、数学の研究にさまざまな意味を持たせたいと考えており、グラフ理論に実用的な意味を持たせるために、グラフ理論とネットワークとの融合をテーマに研究を進めています。特に最近では、人工知能などに用いられるニューラルネットワークの効率化をグラフ理論を用いて研究しています。「目は口ほどに物を言う」というように、私たちの心の状態が目の動きに現れることがあります。例えば、好きな人を無意識に目で追っていたという経験は、多かれ少なかれ誰もが持っているのではないでしょうか。私はこれまで、人の目の動きを計測することにより、人どうしの交流を支える心の仕組みを理解しようしてきました。人が好ましい人物を選ぶ際、その人の視線は選択する人物に偏って向けられます。この現象は視線のカスケード現象と呼ばれ、視線を向けることと好意が密接に関連することを示します。もう少し踏み込んで言えば、「好きだから見る」だけでなく「見るから好きになる」という側面があることが視線のカスケード現象より示されました。しかし、これまでの研究では、好ましさ以外の判断と視線の関係は十分に検討されてきませんでした。また、大学生や大学院生などの若年者が先行研究の対象であり、高齢者でも認められるかは不明でした。そこで、視線と選択の関係が、好ましさと無関係の判断(どちらが年上か等)でも認められるか(齊藤ら, 2015, 認知科学)、さらに、高齢者でも認められるかを調べました(Saito et al., 2017,Frontiers in Aging Neuroscience)。高齢者と若年者に二つの顔を提示し、年上と思う方、好ましい方、嫌いな方、自分と似ている方を選択してもらいました(図a)。結果、好ましさだけでなく、どちらが年上かという好ましさ以外の判断においても視線が選択する対象に偏りました(図b)。この傾向は、若年者と高齢者で偏り始めのタイミングが異なる以外は同様でした(図c)。これにより、選好判断に限定されず視線が印象判断に広く関与していることが明らかになりました。つまり、視線の偏りは、対象への好意の増加だけでなく他の認知プロセス(例えば行為の確証)と関わっている可能性が示唆されました。現在は視線計測器やMRI 装置を用いて、他者に対する印象と無意識の行動の関係や印象形成のメカニズムについて研究しています。将来はこれらの知見をもとに、他者に対するネガティブな印象(偏見や差別)を解消する方法を見つけたいと考えています。「 実用的な数学の研究」「 視線計測で人の交流を支える心の仕組みを理解する」伊東 桂司情報・システム領域博士研究教育院生3年情報科学研究科 情報基礎科学専攻齊藤 俊樹人間・社会領域博士研究教育院生3年医学系研究科 医科学専攻図 実験の方法と主な結果。(a) 実験で用いた画面の例。参加者は最初に提示された指示に従って、二つの顔から一方を選択した。(b) 最終的に選択する顔に視線が向けられた割合。好ましさ以外の判断でも視線の偏りが認められた。(c) 高齢者と若年者の視線の動きの比較。高齢者も若年者と同様に好ましい方に偏って視線を向けた。