ブックタイトルクロスオーバーNo.41

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概要

クロスオーバーNo.41

05学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.41イネは世界の食糧の25% を占める重要な作物です。私はイネを研究対象として、作物生産性に強く関係する光合成能力の強化を目指した研究を行っています。光合成反応では、電子伝達反応によって太陽からの光エネルギーを化学エネルギーに変換し、そのエネルギーを利用してカルビンベンソン回路を回し、二酸化炭素から最終的にデンプンなどの糖を作っています。これらの反応のうち、晴天時の現在の大気条件下では、カルビンベンソン回路の初発反応である二酸化炭素の固定を触媒するRubisco という酵素が光合成の律速であることがわかっています。そこで、私たちはRubisco をターゲットとし、遺伝子組換えによってRubisco 量を30% 増やしたイネ(Rubisco 過剰生産イネ)を作出し、人工気象室での栽培において、一枚の葉レベルでの光合成速度の向上とバイオマス生産量の増加に成功しています。私は現在、このRubisco 過剰生産イネをベースにして主に2 つの実験に取り組んでいます。1 つ目は、実際の水田環境での光合成能力と収量の評価です。私たちの研究グループでは、2016 年から、第一種使用規定承認を得て、東北大学大学院農学研究科川渡フィールドセンター遺伝子組換え作物専用隔離ほ場でのRubisco 過剰生産イネの栽培試験を行っています。ここで、実際の水田環境下でも高い光合成能力が発揮されているか、高い光合成能力は収量の増加に繋がっているか、調査を行っています。また一日の光合成速度の変化をモニターすることで、光合成能力を改良するための新たなターゲットの探索も行っています。2 つ目は、更なる光合成能力の強化に向けて、Rubisco とともにRubisco の活性化酵素であるRubisco activase(RCA)を同時に過剰生産させたイネを作出し、その光合成能力の解析を行っています。以上のような実験室とフィールドの両方で研究を行うことで、作物生産性向上に繋がる光合成研究を進めていきたいと考えています。Aspergillus 属の真菌類(コウジカビ類)は、真菌類において最も多様性を示す微生物群の一つであり、その中には発酵産業や医療、農業において重要な種が含まれている。このことから、コウジカビ類の多様化に関する分子メカニズムの解明は、諸分野の課題解決に資する知見が得られる可能性がある点で重要視されている。私は、日本酒や味噌、醤油といった日本の伝統的な発酵食品の製造や有用物質生産に用いられるコウジカビAspergillus oryzae のエネルギー代謝系(解糖系)関連遺伝子における、“選択的プロモーター(AP)”という遺伝子発現基盤に着目した研究を行ってきた。プロモーターとは、生物において遺伝子の発現調節を担うゲノム領域のことであり、AP とは、細胞の環境条件の違いによって使い分けられる複数の転写開始点(TSS: ゲノム中において遺伝子発現が開始される位置)によって構成されるプロモーターのことをいう。A. oryzae の解糖系酵素遺伝子の一つであるエノラーゼ遺伝子には、糖炭素源と非糖炭素源の違いによって使い分けられる2 つのTSS からなるAPの存在が既に見出されており、私はこのAP についての進化的保存性を検討した。その結果、エノラーゼ遺伝子のAP に関連する分子基盤はコウジカビ類である程度保存される一方、A. oryzae の近縁種の一つであるA. nidulans ではAP における2 つの転写開始点の使い方が、糖炭素源存在下において異なることが明らかとなった。さらに、その種依存的なAP のTSS 使用法に基づいた糖存在下におけるエノラーゼ遺伝子の高発現は、発酵反応過程における素早い生育に重要であることを実験的に示した。以上の結果は、産業用微生物であるA. oryzae の代謝制御についての理解を促進させるものである他、真菌類において近縁種間におけるAPの多様化を初めて示唆するものである。現在、コウジカビ類のAP を介した遺伝子発現制御の多様化メカニズムをさらに解析することで、真菌類におけるAP の進化的意義を解明することを目指している。「 イネの光合成能力の強化を目指して」「 コウジカビ類の解糖系酵素遺伝子における選択的プロモーター多様化の発見とその意義の探求」菅波 眞央生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科 応用生命科学専攻井上 大志生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科 生物産業創成科学専攻