ブックタイトルクロスオーバーNo.40

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概要

クロスオーバーNo.40

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.4004動物の再生と聞くと、多くの人はトカゲの切られた尻尾が生えてくる現象を想像するかもしれません。地球上には体のパーツを再生できる動物が数多く見つかっており、例えば、私たちにとって身近な動物である魚類はその代表例です。魚類は切られたヒレを元通りに再生することができます(図1)。では、魚類のヒレ再生をヒトに応用することで、ヒトの手足を再生することは可能なのでしょうか?この問いに答えるためには、魚類が体のパーツをどのように再生するのかを知る必要があります。現在私は、小型淡水魚のゼブラフィッシュのヒレ再生をモデルに、再生するヒレの大きさを決めるメカニズムの研究に取り組んでいます。ヒレの再生過程では、切られたヒレは急速に成長し、ある一定の大きさに到達した時にその成長が止まります。これはヒレが再生すべき大きさを何らかの方法で知っていることを示していますが、そのメカニズムはほとんど明らかになっていません。私はこれまでの観察において、再生終了時のヒレの大きさが体に対して特定の比率(体に対して約3 分の1)になっていること、そしてヒレ再生中の体の大きさの増加に合わせて再生終了時のヒレの大きさも増加することを発見しました。これらの結果から私は、ヒレは体の大きさに合わせて再生すべき大きさを決めているのではないかと考えました。この現象の分子メカニズムを明らかにするために、私はホルモンなどの全身性シグナルが体の大きさの変化を再生中の尾ヒレに伝達しているという仮説(図2)を立て、検証を行っています。これまでに、ヒレ再生中に体が大きくなる場合には、複数のペプチドホルモンの遺伝子発現量が増加していることがわかりました。また、それらのホルモンはヒレにある受容体を介してヒレの成長を制御することが報告されていることから、体の大きさの変化はホルモン量の増加として再生中のヒレに伝達されるのではないかと考えています。そして、現在は遺伝子組換え個体を用いてヒレが受け取るホルモン量を操作することで、ホルモン量とヒレの長さの関係を調べています。私たちが何かものを見たとき、脳内では様々なスケールで神経活動が生じます。私の研究のゴールは、これらの神経活動を測った脳波から、その人が見ていた画像を復元することです。なぜ脳波から画像を復元する研究が重要なのでしょうか。その理由の一つは、私たちの脳内でものを見るときに起こる視覚情報処理のメカニズムの理解のためです。脳波からどのような視覚情報が解読できるかを探ることで、脳内で起こる神経活動の複雑な時空間パターンが画像とどうかかわっているかを調べることができます。もう一つの理由は、脳波と機械やコンピュータをつなぐブレインコンピュータインターフェース(BCI)というタスクにおいて、例えば脳波を入力として車いすを操縦させる場合など、脳波から様々な情報をできるだけ正確に読み取ることが必要とされるからです。脳波から画像を復元する技術の実現のため、私は深層学習(Deep Learning)という技術を用いています。深層学習は元々、脳内の神経回路を単純化したモデルからスタートした技術で、現在では画像認識、物体検出、機械翻訳、ロボティクス、ゲームAI などの様々な分野で急速に研究と応用が進んでいます。深層学習では、入力から出力までの情報処理を、大規模で階層的なモデルによって実現し、モデルのパラメータを大規模なデータから徐々に学習していきます。私の研究では、深層学習の強みであるモデルの柔軟性を活かし、脳波の複雑な時空間パターンから重要な情報をうまく取り出し、そこから画像を正確かつ鮮明に復元する技術の研究を進めています。また、画像復元の次のステップとして、想像している際の心象、動画、音声、言語など、より複雑なタスクへ私の研究成果を応用していきたいと考えています。「 魚類を用いた動物が体のパーツを再生する仕組みの解明」「 深層学習で脳波から画像を解読する」植本 俊明生命・環境領域博士研究教育院生3年生命科学研究科生命機能科学専攻伊達 裕人情報・システム領域博士研究教育院生3年情報科学研究科システム情報科学専攻図:切られたヒレが体に合った大きさに再生する仕組みの仮説図:実験の概要図