ブックタイトルクロスオーバーNo.38

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概要

クロスオーバーNo.38

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3806「いますぐ教授室に来るように」もしもこんなメールが指導教官から送られてきたら、皆さんはどのように感じますか?「何か悪いことしたっけな…」とか「怒られるかもしれない…」なんて、ついついネガティブな想像をしてしまったりしませんか?このように、不明瞭な社会的場面をネガティブに捉えてしまう認知の偏りを「解釈バイアス」といいます。対人場面において過度な緊張や不安を感じてしまう「社交不安傾向」の高い人はこの解釈バイアスを強く持っていることが知られております。そこで、ネガティブに偏ってしまっている解釈バイアスをポジティブに是正することが社交不安の軽減につながると考えられております。精神医学者のMathews ら(2000)は、ポジティブ思考の想像学習によって解釈バイアスを是正し社交不安を軽減させる「解釈バイアス調整法」を開発しました。解釈バイアス調整法では、被験者に以下のような介入を施します。例えば、冒頭で挙げたような不明瞭な社会的な状況を表す2文(「教授から呼び出しのメールがきた」「教授室に伺った」など)とそれに続くポジティブな結末を表す1文(「研究の進捗状況を褒められた」など)を提示します。これを1試行として、約100 試行分の社会的場面を想像してもらいます。この介入により「不明瞭な社会的な状況がポジティブな結末を迎える」というルールが頭に刷り込まれ、ポジティブ思考が自然に身につくと考えられております。しかし、解釈バイアス調整法がどのような神経基盤によって社交不安を軽減しているのかは明らかになっていませんでした。そこで私は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、想像学習中にどのような脳領域が活動しているのか、また想像学習の前後で脳活動がどのように変化したかを解明するための研究を行っております。本研究により介入効果を司る神経基盤が明らかとなれば、社交不安をより効果的に軽減させる新たな方略の開発に貢献できると期待されます。「宇宙が加速膨張している」ということは、皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、一般相対性理論に基づくと、膨張の仕方は宇宙を構成する物質の組成・性質によって決められます。そのため、宇宙の膨張率を正確に測ることにより、未だその正体が分かっていない暗黒エネルギーの性質に迫れると期待されています。膨張率を測定するためには、長さの基準として「物差し」が必要になりますが、その一つとして注目されてきたのが「バリオン音響振動」です。宇宙初期では、光子とバリオン(陽子や中性子など)からなる一流体プラズマの中を物質や圧力の揺らぎが音波(密度波)として伝搬していました。この音波の振動パターンの名残は、銀河(物質)の分布の二点相関の中にピークとして現れるため、その位置を物差しとして利用できます。しかし、宇宙の構造が形成される過程で個々の銀河が動いてしまい、ピークが均されてしまうことで、膨張率の測定精度が悪くなってしまうという問題点が知られています。本研究では、このピークを復元するための手法の開発を行ってきました。これまでの研究から、観測された銀河の分布(重力ポテンシャル場)から推定された各銀河の変位(速度ベクトル)を用いて銀河の位置を元に戻し、物質の分布を再構築することでピークをある程度復元できることが分かっています(図参照)。しかし、実際の銀河の変位は移動する前の分布によって決定されるため、上記の方法で推定された変位とは少なからずズレが生じてしまうことになります。そこで、従来の再構築法を改善するために、先行研究で提唱された、銀河の変位を推定するプロセスを何度も繰り返す iterative algorithm と呼ばれる方法を発展させ、より正確な変位の推定が行える再構築法を確立しました。現在、次世代の銀河サーベイを念頭に置き、シミュレーションから得られたデータに適用することで、性能評価を行っています。「 ポジティブ思考の想像学習による社交不安軽減効果の神経基盤の解明」「 バリオン音響振動を用いた暗黒エネルギーの解明」榊 浩平人間・社会領域博士研究教育院生4年医学系研究科医科学専攻羽田 龍一郎先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科天文学専攻