ブックタイトルクロスオーバーNo.38

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概要

クロスオーバーNo.38

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3804大災害によって大切な人やものを失ったとき、精神疾患を発症する方も、発症しない方もいます。仕事で失敗したとき、私はぐずぐずと落ち込みますが、すぐに立ち直り頑張る人もいます。どうやら、ストレスフルな状況における振る舞いには人それぞれ違いがあるようです。その違いは、「レジリエンスの個人差」として捉えられます。レジリエンス(Resilience)は、「逆境からしなやかに回復し、挑戦し、成長する能力」を意味します。怒りや不安などのネガティブな感情を適切にコントロールできることや、逆境の原因を冷静に分析して解決策を考えられること、そして自分の能力を信じて未来を明るく捉えられることが、レジリエンスの基礎であると考えられています。上述の通り、レジリエンスには個人差があります。その理由は、身長や知能と同様、レジリエンスもまた、遺伝と経験の相互作用によって形成されるためです。これまで、生体をストレスから守るシステムの機能を制御する遺伝子のタイプ(ストレスに強いタイプと弱いタイプ)が、親から受けた虐待の経験と相互作用し、レジリエンスに影響することが明らかにされてきました。しかし、虐待を受けずに育った人の間にもレジリエンスの個人差は存在します。また、虐待ほど深刻な状況ではなくとも、厳格さや過保護さなど、親子関係には多様性があるはずです。そこで私は、先述の遺伝子のタイプと「普通の(虐待に当たらない)養育」の相互作用がレジリエンスに与える影響を解明すべく、脳科学と心理学の手法を用いた研究に取り組んでおります。レジリエンスの個人差のメカニズムを明らかにすることで、個々人にあったメンタルトレーニング開発のヒントを得たいと考えております。今現在の研究は20 代の方々を対象としておりますが、将来は子どもから高齢者まで幅広い年代に対象を拡大する予定です。一人一人の人生の満足感の向上に貢献する存在へと、研究を進化させていく所存です。カビはこれまで、抗生物質のペニシリンを筆頭に、医薬シーズとして有用な天然物を数多く提供してきました。私の研究は、カビの生産する天然物を利用し、医薬シーズの創出を目指す研究です。天然物は医薬シーズの探索源として高いポテンシャルを持ちながら、近年では創薬の主役から退きつつあります。その大きな理由は供給の問題です。天然物は生物資源から一般に微量しか得られません。一方で、化学構造の複雑さから人工合成による供給も困難であり、それゆえ、より強力な活性物質の探索や薬としての最適化に必要となる様々な類縁体の供給も適いません。私はこの課題をふまえ、薬のタネとなる天然物とその類縁体を多数つくり出し、創薬研究へ展開するための、新しいアプローチの開拓を目指して研究を行っています。天然物は、生物内にて一連の酵素反応により生産されますが(生合成)、これらの酵素は生産者のゲノム上に生合成遺伝子(天然物の設計図)として書き込まれています。カビのゲノム上には未開拓な天然物の生合成遺伝子が数多く残されており、これらをうまく活用すれば、これまで以上に多様な天然物の創出に繋がります。そこで本研究は、麹カビの遺伝子発現系を利用した“異種生産”に着目しました。すなわち、生合成遺伝子を組込んだ麹菌内で生合成経路を再構築することで天然物を大量生産させます(図)。具体的には、図に示すジテルペノイドピロン類に本アプローチを適用し、カビのゲノムに眠る様々な類縁体の創出に取り組んでいます。さらに、生合成経路のリデザインによる“非天然型”天然物の創出にも展開しています。現在までに合計22 種類のジテルペノイドピロン類縁体の獲得に成功し、この中から、抗ウイルス活性物質など、医薬シーズとして有望な化合物を見出しています。ゲノム情報と異種発現を利用し、有望な活性天然物をもとに様々な類縁体をつくる本研究のアプローチは、ポストゲノムの天然物化学をアシストし、創薬研究への応用が期待されます。「 逆境に打ち勝つ力「 レジリエンス」 の研究」「 カビのゲノムから物質をつくる、ポストゲノムの天然物化学」松平 泉生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻塚田 健人生命・環境領域博士研究教育院生3年薬学研究科分子薬科学専攻