ブックタイトルクロスオーバーNo.37
- ページ
- 7/8
このページは クロスオーバーNo.37 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは クロスオーバーNo.37 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
クロスオーバーNo.37
07学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.37地球表面の約7 割を占め、平均水深4km の深さを持つ海洋はその体積・熱容量の大きさから、地球システムにおける気候を決める上で重要な役割を果たしています。例えば、地球温暖化に伴い産業革命以降に地球に余分に蓄えられた熱の約93%は海洋に蓄えられているという事実からも、海洋の変動を観測しその変動メカニズムを理解することが気候システムの理解や更には将来気候の予測においても重要であることがわかります。地球温暖化に伴って海水温が上昇すること自体は大問題ですが、その水温上昇が海洋内部よりも表層付近でより大きいことによる海洋表層密度成層の強化も近年問題視されています。海洋表層の密度成層は重力的な安定を与えることで鉛直方向の海水交換を制限し、比較的暖かく栄養が不足している表層の海水と冷たく栄養に富む下層の水とを隔てています。そのため表層密度成層の変化は、海面水温や下層からの栄養塩供給過程の変化を通して、大気海洋相互作用や海洋表層の生態系に大きな影響を与えることが懸念されています。そこで私は流体の密度成層を水柱が持つポテンシャルエネルギーの偏差として記述する手法を用いることで、その変動メカニズムを定量的に説明し、その影響を評価することを行っています。これまでに、主に北太平洋の季節的に発達する密度成層(図)の形成メカニズムとその鉛直構造の海域差に着目した研究を行ってきました。その結果、暖候期の海洋表層に熱帯域から高緯度域までに遍在する季節的な密度成層は鉛直方向の1 次元的なエネルギーバランスのもと発達するという共通の性質を有している一方で、その鉛直構造の海域差は暖候期の加熱方法の違いによってつくられることを明らかにしました。今後、この手法を過去の観測データおよび将来気候予測データに応用することで地球温暖化に伴う成層強化トレンドとその生物活動への影響が定量的に明らかになることが期待されます。いまから77 万年より以前の地球では、方位磁針の赤いN 極が現在とは逆の南を向いていました。これは、地球が持つ磁力線が北極から湧き出し、南極で閉じていたからです。しかし、77万年前にこの磁力線の向きが逆転する大事件がおき、赤道付近でもネアンデルタール人がオーロラをみていたはずです。また、この地球磁場の逆転現象は、地球内部の金属核の流体運動(ダイナモ運動)が関係していて、少なくとも32 億年前には始まっていたようです。地磁気は逆転を繰り返し、その強度を変動させながら、何十億年も維持されつづけているのは、なぜなのだろうか? 私は、この問題にチャレンジしています。これまで、地磁気を維持するためには、地球の歳差運動や公転軌道の離心率の変化を通して、流体の金属核へのエネルギー供給が必要であるという議論がなされてきています。また、地磁気逆転時の磁場の形が双極子磁場からズレることも知られています。これまでの深海底堆積物をもちいて過去の地磁気を調べた研究によると、地磁気の強さは約10 万年の周期で変動することが見つかっています。しかし、この変動が地磁気自体の変動なのか、単に深海底堆積物にふくまれる地磁気を記録する鉱物の違いによるのかについては、最近20 年間にわたり大論争が繰り広げられています。これに決着をつけるためには、2 箇所以上の異なる地域で同じ時代の数百万年以上の地磁気の情報を有する深海堆積物を、それぞれ比較することで、磁性鉱物の違いと地磁気成分とを分離すれば良いと考えています。このような条件にあう深海堆積物は、東赤道太平洋の深海堆積物と、私が乗船した国際深海科学掘削計画(IODP)第363 次航海で得た、西赤道太平洋の深海底堆積物があります。現在は西赤道太平洋の堆積物の地磁気の情報を抽出することに取り組み、約900 万年前~約1500 万年前の地磁気記録を再現しています。今後、このデータを東赤道太平洋の結果と比較し、ダイナモ運動における地球軌道要素からのエネルギー供給の有無に決着をつけ、さらに地磁気逆転時に双極子磁場からのズレと金属核の運動との関連についても解析していきます。「 海洋表層成層の形成・変動とその影響の理解」「地磁気ダイナモ運動を維持するエネルギーは何か?~深海底堆積物を用いた検討~」山口 凌平先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 地球物理学専攻熊谷 祐穂先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 地学専攻図:典型的な海水密度鉛直プロファイル(a, b)とそれらに対応するポテンシャルエネルギーの偏差の季節発展(c, d)