ブックタイトルクロスオーバーNo.37

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概要

クロスオーバーNo.37

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3706全地球規模の環境情報を取得する手段として、人工衛星を利用した観測が広く普及しています。中でも地表面の分光観測を行うマルチスペクトル観測は、米国のLANDSAT シリーズを中心に1970 年代に実用化され、農作物の分布状況や森林の調査、資源探査等に欠かせないものとなっています。これら現行のマルチスペクトル地球観測衛星は、一次元のラインセンサを使用し、衛星が地球を周回する運動とともに広範囲の地表面をスキャンする「プッシュブルーム方式」での観測が一般的です。しかし写真の露光中にも衛星が移動してしまうため、地表分解能30m を上回る観測を行うことは困難でした。そこで私は目標観測地点に対して衛星に搭載された望遠鏡を追尾させることで、地表分解能5m を達成する「ターゲットポインティング方式」の観測技術の研究に取り組んでいます。高解像度画像の利用により、農作物の生育状態の判別や木々一本毎の樹種判別等が可能となり、ハイテク農林水産業への応用が期待されています。高真空の宇宙空間では可動部品を減らすため、観測用の望遠鏡は衛星本体に固定することが一般的です。しかし大型衛星と呼ばれる数トン級の衛星では、地表の一点を追尾するよう衛星本体の姿勢を高速かつ高精度で制御することは困難でした。そのため小回りのきく重量約60kg、50cm 立方サイズの超小型人工衛星RISESAT を研究室内で開発し、2018 年中にイプシロンロケット4 号機にて打ち上げることで、軌道上での実証実験を計画しています。地表分解能5m の達成には、秒速約8km で移動する衛星の位置を20m 以下の誤差で決定し、衛星の姿勢を自律的に0.1 度以下の精度で制御する高精度軌道決定および姿勢制御技術の確立が不可欠です。また打ち上げ後の修理が不可能な衛星に対して、事前に地上にて宇宙環境での衛星の挙動を模擬した実験を行うため、衛星実機のハードウェアと宇宙環境の数値シミュレーションを統合したシミュレータの開発にも取り組んでいます。カナダやヨーロッパなどの西欧社会の一部では、移民の文化・価値観の保持を促進する政策が導入されています。こうした多文化主義政策と呼ばれる政策の導入により、移民の居住国に対する愛着が損なわれるという議論が政治家や研究者の間で行われてきました。しかしながら、多文化主義政策の導入と移民の居住国への愛着との関連が実証的に示されたことはほぼありません。そこで私は、ヨーロッパ20 カ国に居住する移民を対象とした社会調査データをもとに、多文化主義政策の度合いと移民の居住国への愛着との関連を分析しました。結果として、多文化主義政策下では移民の居住国に対する愛着が増すことが明らかとなりました。多文化主義政策のもとでは、移民が居住国社会により参加しやすくなり、結果として居住国への愛着が増すと解釈できます。加えて、移民の中でも、非ヨーロッパ出身の移民に対してのみ効果があり、ヨーロッパ出身の移民には効果がありません。これは移民の中でもヨーロッパの文化と異なる文化を保持している移民が多文化主義政策の受益者となっていることを示しています。次に、愛着が減少するという議論がなぜ支持されなかったのかを検討します。こうした議論は、多文化主義政策下で移民の文化が保持された結果文化に対する愛着が増加し、これらは居住国に対する愛着と背反するため居住国への愛着が下がると主張しています。これに対し私は、多文化主義政策のもとでは移民の自集団への愛着と居住国への愛着が背反関係にはならなくなることを示しました(下図参考)。多文化主義政策が導入された結果、移民は居住国を文化的多様性を重視する国として捉えるようになり、移民の自集団に対する愛着と居住国に対する愛着とが矛盾しないようになるといえます。今回の研究は多文化主義政策の度合いを一時点で測定していますが、今後は政策の歴史的な変遷とその効果について研究を行っていく予定です。「 超小型人工衛星の精密な姿勢制御で地表の高解像度マルチスペクトル観測を実現」「 多文化主義政策が移民の居住国に対する愛着に与える影響」藤田 伸哉情報・システム領域博士研究教育院生3年工学研究科 航空宇宙工学専攻五十嵐 彰人間・社会領域博士研究教育院生3年文学研究科 人間科学専攻