ブックタイトルクロスオーバーNo.37
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クロスオーバーNo.37
05学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.37畜産動物の生産は外気温の変化に大きく影響を受けます。その中でも、ニワトリは、高温環境に特に弱い畜産動物であり、近年世界的な問題となっている地球温暖化により、2060 年には夏季の鶏肉生産が他の季節と比較して、5 ~ 15% 低下することが予想されています。従って、高温環境下においても鶏肉を安定的に生産できるシステムの確立は、われわれ農学分野が抱える重大なミッションです。私は、鶏肉の高温環境で生産性低下を引き起こす要因の一つは骨格筋タンパク質分解亢進と考え、その亢進メカニズムの解明を急いできました。すでに医学・薬学領域では、筋タンパク質分解は、骨格筋内のミトコンドリア活性酸素・エネルギー代謝や、骨格筋外の副腎皮質ホルモン(コルチコステロン)・炎症性物質(前炎症性サイトカイン・内毒素)・成長促進因子等が関わる非常に複雑な代謝ネットワークにより調節されることが明らかにされています。そこで、私は、まず、コルチコステロンとミトコンドリア活性酸素が高温時の筋タンパク質分解亢進に関与するか否かに関して、ニワトリ体全体と培養筋細胞を用いて調べてきました。その結果、高温環境によりニワトリ血中のコルチコステロン濃度は確かに増加するが、その程度の増加では、筋タンパク質分解は誘導されないことを明らかにしました。その一方で、高温環境負荷により増加するミトコンドリア活性酸素は、タンパク質分解構成因子であるAtrogin-1 の発現増加を介して、ユビキチンプロテアソーム系のタンパク質分解を誘導することを見出しました。以上により、ミトコンドリア活性酸素は高温環境の筋タンパク質分解亢進の制御ポイントの一つであることが明らかになりました。現在、この筋タンパク質分解への関与が予想される、エネルギー代謝、炎症性物質や成長促進因子について調べており、今後は、さらに明らかにできたメカニズムに基づき、活性酸素消去剤など、多岐にわたる機能的栄養資材を用いて高温ストレスの栄養制御を行っていく予定です。生殖細胞は、細胞の中で唯一、次世代の個体を生み出すことのできる細胞です。また、がん細胞は、無限増殖や浸潤・転移など特殊な能力を持つ細胞です。私は、これらの2 種類の細胞に着目して研究を行っています。現在までに、ヒトにおいて、生殖細胞とがん細胞に共通して発現が見られる遺伝子が多数発見され、これらは、がん精巣抗原(CTA)遺伝子と呼ばれています。これらは、がんの免疫治療のターゲットとして有望視されていますが、なぜこれら2 種類の細胞で発現が見られるか、各細胞における機能やその発現の重要性については明らかになっていませんでした。私は、CTA 遺伝子について生殖細胞とがん細胞の双方での解析を行うことで、これらの細胞で発現する意義と、生理的機能を明らかにすることを目指しています。ヒトで発見された遺伝子は生殖細胞での解析が難しいため、私はヒトとマウスに共通して発現が見られる遺伝子について、マウスを用いて解析を行おうと考えました。そこで、私はヒトのCTA 遺伝子が、マウスにおいても精巣とがん細胞で特異的な発現をしているかを調べました。これより、ヒトとマウスに共通して発現するCTA 遺伝子を87 遺伝子同定しました。さらに、これらの遺伝子について、がん細胞で細胞増殖への関与を調べたところ、機能低下によって、30 遺伝子が細胞数の減少、15 遺伝子が細胞数の増加を示しました。また、いくつかのCTA 遺伝子についてDNA 修復への関与を調べたところ、機能低下によってDNA 修復能の低下が見られる遺伝子が存在しました。したがって、CTA 遺伝子の中には、がん細胞の性質維持に寄与しているものが多数含まれていることがわかりました。現在は、CTA 遺伝子の中から、がん細胞の性質維持に大きく関わる遺伝子について、がん細胞株での解析やノックアウトマウスの解析によって、その生理的機能や分子メカニズムを明らかにすることを試みています。「 高温環境におけるニワトリ骨格筋タンパク質分解亢進の制御ポイントの特定」「がん細胞と生殖細胞で共通発現する遺伝子の解析」古川 恭平生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科 応用生命科学専攻青木 七菜生命・環境領域博士研究教育院生3年生命科学研究科 生命機能科学専攻