ブックタイトルクロスオーバーNo.37
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クロスオーバーNo.37
Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3704近年の環境問題への関心の高まりから、環境負荷の小さなエネルギー変換装置の一つとして燃料電池が注目されています。その中でも特に固体高分子形燃料電池(PEFC)は動作温度が低く、小型軽量化や起動・停止を繰り返す運転に適し、家庭用の分散発電システムや燃料電池自動車への応用に向け開発が進められています。PEFC 内部では、アノード側触媒で水素が分解されて生じたプロトン(H+)が電解質膜(PEM)を通過してカソード側触媒まで移動し、そこで酸素と反応して水を生成することで発電が行われます。このため、PEFC の性能はPEM 内のプロトン伝導性と強い相関があり、これはPEM 内部の水クラスターが形成するナノ構造に依存することが明らかになっています。また、このPEM の保持、および発電時には電極を兼ねるセパレータには湿潤環境での耐食性と導電性が求められ、現在はカーボンやチタンなどが使用されており、PEFC の普及のためにはセパレータの低コスト化が必要です。しかしながら、ステンレスなどの安価な合金をセパレータに用いた場合、セパレータから溶出した金属イオンによってPEM のプロトン伝導性が劣化し、PEFCの発電性能も低下してしまいます。この問題を解決するためにはPEM 内部での金属イオンの振る舞いを解析する必要がありますが、ナノスケールの構造とイオンの状態を実験で直接観測することは困難です。そこで本研究では、原子スケールの挙動を直接観測できる分子動力学法を用いて、スーパーコンピュータ上で金属イオンが混入したPEM をシミュレーションすることにより解析を行っています。これにより、実験や従来の連続体理論による解析では困難なナノスケールの構造と輸送特性の定量的な評価が可能となり、本研究により金属イオンの混入がプロトン伝導性に影響を及ぼすメカニズムが解明されれば、将来的には劣化耐性の高い長寿命なPEM を理論的に設計することができるようになると期待されます。肥満は現在国民病とも言える疾患であり、生活習慣病の原因として非常に注目されています。特に肥満に続発する高血圧、高血糖、高脂血症をメタボリック症候群と呼び、この疾患の改善は健康長寿だけではなく医療経済の観点でも非常に重要な問題とされています。私は特に肥満に続発する高血圧について着目した研究を行っております。高血圧は血圧が高い状態を指しますが、その原因の一つとして副腎という小さい臓器からアルドステロンという血圧を上昇させるホルモンが過剰に分泌されることが挙げられます。高血圧はあまり自覚症状がありませんが、確実に血管を傷つけ、動脈硬化が進行します。結果として、心筋梗塞や脳卒中といった生命に関わる疾患を引き起こす原因となります。肥満は「太っている」状態とも言い換えることが出来ますが、実際には体内の脂肪細胞が増加、肥大している状態になります。脂肪細胞からは多くの液性因子が分泌されており、特に増えすぎて大きくなった脂肪細胞から分泌される液性因子はメタボリック症候群を悪化させる原因となっています。近年ではこの脂肪細胞から副腎のアルドステロンを過剰に分泌させてしまう液性因子が出ていることが報告されていますが、現在のところ液性因子を発見したという報告はありません。私はこの因子を同定することで肥満に続発する高血圧の詳細な分子機序を解明することを目的として研究しています。実験としては脂肪細胞を培養し、その培地中に含まれる成分を解析しています。現在のところ、副腎のアルドステロンを過剰分泌する原因となりうる液性因子は1 種類ではなく多種類にわたることがわかりました。このことから、体内で複雑な系が相互作用し、副腎のアルドステロンを過剰分泌させることで高血圧を形作っていることが考えられます。(図1)「 燃料電池の低コスト化を実現するシミュレーション技術の研究」「 肥満と高血圧に関連する液性因子研究」川井 喜与人物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年工学研究科 ナノメカニクス専攻島田 洋樹生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科 保健学専攻研究教育院生の研究内容紹介PEFCの模式図とPEM内のナノ構造(シミュレーション)図1. 肥満に続発する高血圧の予想モデル