ブックタイトルクロスオーバーNo.36
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クロスオーバーNo.36
Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3606一部の微生物は外部からの力を受けることなく水中を遊泳することができます。「外部からの力を受けることなく」という点はよくよく考えてみると不思議ですが、これら微生物には蓄えたエネルギーを化学反応によって推進力に変換する仕組みがあり、この仕組みの為に微生物は自発的に運動することができます。また、これら運動する微生物はたださまよっているわけではありません。基本的にはエサが多く存在する場所を目指しています。これらの事実から、運動する微生物には「自身の持つエネルギーを使って、目的を持った運動を行う微小なロボット」という側面があると言えます。これはロボットとして理想的な機能です。何せ、動作環境に置いてあげさえすれば勝手に所定の目的を達してくれるのですから。しかし、実在する微生物は生物であるが故の扱いの難しさがあります。そこで、私たちの研究グループでは実在する微生物よりも単純な材料を用い、扱いやすい形で微生物の運動を模倣するシステムの構築ができないかと考え、様々な物質を用いて実験を行なっています。私はリン脂質(生物の細胞膜を構成する主成分)が水中で作る微生物サイズの凝集体に界面活性剤(洗剤の主成分)を加えたところ、リン脂質の凝集体が溶解しながら一方向に運動する、という現象を発見しました。さらにリン脂質の凝集体が細いチューブ状の形状をとっているとき、チューブが左右に波打つ変形も同時に起こることが観察されました。このような波打ち変形は精子の鞭毛運動など、微生物の運動の際にも見られます。「溶けながら動く」ことと「細長いチューブ形状」という二つの特徴が相まって規則的な波打ち変形が現れたことは注目すべき結果です。私たちは「一方向的な運動」と「物体の形状」との相関により、運動する微生物が見せるような複雑な運動も模倣できるのではないかと考え、研究を行なっています。原子・分子は、正の電荷を持つ原子核と、負の電荷を持つ電子から構成されています。原子・分子の性質や化学反応を理解するには、原子核と電子がどのような状態を形成するかを明らかにする必要があります。「電気的に相互作用する量子力学的な多粒子系をいかに精密に理解するか」という課題は、現代化学の一つの大目標といっても過言ではありません。電子や陽子などの粒子に対して、反対符号の電荷をもつ「反粒子」と呼ばれる粒子があります。近年、電子の反粒子である「陽電子」や、陽子の反粒子である「反陽子」など、多量の反粒子を生成・蓄積する技術が進んだため、反粒子と原子・分子との化学反応を研究することが可能になってきました。これらの反粒子は、原子・分子を形作っている原子核・電子の電気的なバランスに大きな影響を与え、通常では起こりにくいような現象を誘起することがあります。私は、原子・分子に「陽電子」や「反陽子」を反応させた場合の化学的性質の変化を、少数個の粒子の量子状態を精密に記述する理論計算手法に基づいて研究しています。特に、最小の反物質であり、陽電子と反陽子から構成される「反水素原子」の化学反応に興味をもち、水素原子との衝突で「ハイドロジェニウム」という風変わりな分子を経て、結合の組み換えを起こして、極小の原子「プロトニウム」とポジトロニウムを生成する反応(図)を研究しています。通常の原子・分子反応でも、原子核の運動と電子の運動が互いに影響を及ぼす効果が最近注目されていますが、ハイドロジェニウムは、陽子・反陽子と電子・陽電子の相関が大きく、この効果を調べる上で優れた化合物であることが分かってきました。反粒子と原子の化合物の研究は、物質・反物質への化学的理解を深めるだけでなく、素粒子物理学理論の検証に不可欠な物理量の精密決定に役立つ期待があります。また、反粒子の対消滅を利用した物質材料分析・医療応用への基礎理解を築くことにもつながります。「 微生物の“ 動き” を再現する」「 反粒子と原子の風変わりな化学反応・結合機構の探索」諸橋 博昭先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 物理学専攻山下 琢磨先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 化学専攻