ブックタイトルクロスオーバーNo.36
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クロスオーバーNo.36
Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3604細胞膜は、細胞の内外を繋ぐ窓口であり、細胞膜表面に存在するナノスケール構造の変化が、膜機能に重要な役割を果たしています。例えば、細胞内への輸送経路の一つであるクラスリン依存エンドサイトーシスは、細胞表面に直径120 nm 程度の窪みが出現し、数分以内に内部へ陥入することで行われます。このような生細胞表面の形状変化を追跡すれば、細胞内外を結ぶ膜機能の理解に繋がりますが、柔らかい細胞膜上のナノスケール構造の実動態の測定は困難でした。細胞観察に広く用いられる光学顕微鏡は、細胞にストレスを与えず観察できますが、透明な細胞膜を標識なしで観察することが難しく、一般的に可視光の波長の半分以下(200 nm程度) の分解能でしか観察できません。電子顕微鏡は、原子レベルの分解能を有しますが、測定に真空環境を要するため生細胞には適応できません。細胞膜という繊細な窓口を介し、活きた細胞機能を解析するには、高空間分解能の表面形状測定を非侵襲で達成する必要があります。私は、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡の開発・改良を行い、細胞表面のナノスケール形状を観察しています。走査型イオンコンダクタンス顕微鏡は、電解液が充填された極細のガラスピペット(先端径50 nm 程度)に電極を挿入し、電圧を加えてピペット先端にイオンの流れを生みます。このイオン流が試料への接近で妨げられることを利用し、ピペットと細胞の距離を制御して形状測定を行います。試料への物理的な接触が無いため、細胞にストレスを与えず、生きた細胞の実形状を観察できます(図1)。当研究室では、本顕微鏡の操作アルゴリズムや制御装置を改良し、従来の50 倍以上の高速化に成功して(1 イメージ18 秒程度)、細胞の動きの観察が可能です。本研究により、従来法では観察不可能な膜界面での局所動態を明らかにし、細胞機能解析における新しい価値基準の提供を目指しています。今、医療分野では様々なデータを有効に利用することが課題となっています。近年の電子カルテをはじめとする医療の電子化は、ありとあらゆる診療データを蓄積できるようになってきましたが、日々増大する膨大なデータを利用する(=解析する)ことはそのデータ量の多さから非常に困難とされていました。いわゆる「ビッグデータ」(図参照)とよばれるものですが、最近のニュースでも取り上げられているようにコンピュータ技術の発達によって解析が徐々に可能となってきています。私は、麻酔・集中治療を専門にしていますが、このビッグデータには今まで見落とされてきたような治療のヒントが数多く隠されているのではないかと考えています。たとえば、患者さんが急変する前兆をみつけたり、入院後の早い段階で生存予測をしたりすることなどがこれに当たります。聞こえはいいのですが予測を正確に行うことはとても難しいことです。医師という職業は、ひとことで言えば患者さんの未来を予測する(=診断する)ことのできる職業で、正確に予測できる医師は世間では「名医」と呼ばれます。これを機械で行うということは、医師を育てること以上に困難なことなのです。従来、医師の経験や勘に頼らざるをえなかった不均一な医療は、ビッグデータ解析と人工知能の発達によって、向こう10 年余りで劇的に変化していくと予想されています。私の研究が、その一端を担えるかはわかりませんが、その一部をご紹介します。○ 敗血症の90 日死亡率を、 入院後最初の48 時間で予測する。従来は血液検査や一部のバイタルサインデータ(血圧、脈拍など)の多項目を利用していました。大量の血圧データを使うことで、より早い段階で、正確に、どのくらいの低血圧が許されるのかまで判定するシステムを作成しています。さらに、従来困難だったフリーテキストデータ(看護カルテの自由記載欄)を解析することで、その正確性を上昇させています。「 生きた細胞の実動態を可視化する高速走査型イオンコンダクタンス顕微鏡」「 敗血症におけるビックデータ解析による転帰予測システムの開発」井田 大貴生命・環境領域博士研究教育院生3年環境科学研究科先端環境創成学専攻小林 直也情報・システム領域博士研究教育院生3年医学系研究科医化学専攻図1(左) 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡の測定概略図。培養液中で1細胞上の局所領域の形状像を取得可能。(右) HeLa細胞表面の微絨毛の三次元形状像(測定範囲 : 10 μm×10μm)。微絨毛は外界との物質の交換や細胞遊走などに関与する細胞膜上の突起構造。