ブックタイトルクロスオーバーNo.35

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概要

クロスオーバーNo.35

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3504私は、経営意思決定について心理学・脳科学的な観点で研究を行っています。今回は研究の一端をご紹介したいと思います。これまで、企業経営においては直観的な認知スタイル(直観性・合理性)がより重要であると言われ、80 年以上にわたって研究されてきました。例えば、直観と起業家、直観と戦略的意思決定、直観とプロジェクトマネジメントなど研究テーマは多岐にわたっています。認知スタイルと職階に関する研究によると、職階が上がるにつれて直観的になっていることが研究により明らかになっています。実際のビジネスでは、時間制約がある中で完全な情報を得られることはまずありません。むしろ、不確実な状況下で仕事を進めなくてはならない状況が多々あります。多くの管理職はこのような状況に直面したときに、直観的な意思決定を行うと言われています。例えば、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏はCNN のインタビューでアイデアの良し悪しをどう判断するか尋ねられ「直観」と答えています。しかしながら、認知スタイルと職階に関する先行知見には?質問紙の問題?対象者の年齢の影響を考慮していない?文化の影響の3 つの問題があることが判明しました。そこで研究では、最新の心理・神経科学で妥当性が検証された質問紙を用い、年齢を統制した上で、30 代から60 代の私企業に勤める日本人ビジネスパーソン1,600 名を対象とし職階と認知スタイルの研究を行いました。その結果、日本人管理職はより合理的な認知スタイルをしていることが明らかになりました。これは英国で行われた先行知見とは真逆の研究結果でした。つまり、経営意思決定における“直観性神話”なるものは英国や欧米圏に特有のものであると推察されます。そのため、欧米発の経営意思決定論は文化的影響を考慮する必要があり日本でも適用できるとは限らないことが示唆されました。この認知スタイル研究の外にも、脳計測装置を用いた経営意思決定に関する研究を行っています。冬半球の高緯度地域には冷たく乾いた寒気が蓄積しており、間欠的に中緯度へ流出します。極域からの寒気の流出は中緯度に寒波や豪雪をもたらすなど、私たちの社会・経済活動に大きな影響を与えます。寒波の強さとして例えば、上空約5000 mの気温-40 ~ -45℃が目安として使われてきました。しかし空気塊の高さとともに気温は断熱的に変化するため、気温を見るだけでは極域から流出してくる寒気を正確に追跡することが困難でした。そこで私たちの研究室では、温位という物理量に着目し、寒気と寒波の定量的な評価法を提案しました [1]。温位とは空気塊を基準の高さ(1000 hPa 面)に断熱的に移動させたときの温度で、高さと共におおよそ単調増加します。温位を高さの代わりに鉛直方向の座標とすることで、極から中緯度への寒気の流出と低緯度から高緯度への暖気の流れの平均的な特徴が明瞭になります。冬半球において、温位座標に沿って経度平均した南北―鉛直断面での大気循環は図a のように模式的に表され、おおよそ温位が280 K よりも低いところで寒気が低緯度に流れています。このことから、温位280 K 面以下の大気を寒気と定義し、その流量から寒波を定量的に評価します(図b)。私の研究では、北極域に蓄積する寒気の量と中緯度に流出する寒気の量の変動について解析を行いました [2]。寒気の流出が起こる前にはゆっくりと高緯度で寒気の量が増加し、寒気流出が起こると高緯度地域の寒気が減少し、平年の値に戻るまでに2 週間以上の長い時間が平均的にかかることを明らかにしました。この関係は1940 年代後半から知られていた「寒気の蓄積と放出」と呼ばれるもので、本研究で初めて定量的に評価することが出来ました。また、この「寒気の蓄積と放出」の関係は年々変動の時間スケールにも適用できることを明らかにしました。この手法は、気象庁の気候監視等にも使用されており、冬季の天候や異常気象の理解に欠かせないものとなりつつあります。[1] Iwasaki, T., T. Shoji, Y. Kanno, M. Sawada, M.Ujiie, K. Takaya, J. Atmos.Sci., 71( 6), 2014.[2] Kanno, Y., M.R. Abdillah, and T. Iwasaki, Geophys. Res. Lett., 42( 17) , 2015.「経営意思決定における心理・脳科学的研究」「温位座標に基づく寒気と寒波の定量評価」影山 徹哉人間・社会領域博士研究教育院生3年医学系研究科 医科学専攻菅野 湧貴先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 地球物理学専攻図 (a) 温位面に沿って東西平均した寒気と暖気の流れの模式図。等値線は東西平均の温位を表す。(b) 温位280 K面以下の質量フラックス( ベクトル) とその大きさ( 色)。