ブックタイトルクロスオーバーNo.35

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概要

クロスオーバーNo.35

03学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.35★ 五十嵐さんの研究は第2回日本筋学会学術集会Student's Awards最優秀賞を受賞しました神経科学分野では、光を受け取ることで構造を変化させ、陽イオンを透過させる膜貫通タンパク質(光感受性イオンチャネル)を遺伝学的に神経細胞に導入し、その神経活動を光によって引き起こす技術“オプトジェネティクス(光遺伝学)”が2005 年から報告され、爆発的な勢いで研究が加速しています。私の所属する研究室は、世界に先駆けてこの技術基盤を構築した光遺伝学のパイオニアです。遺伝子操作技術を応用して、動物の神経細胞に植物プランクトンの光感受性イオンチャネルを作らせると、光感受性イオンチャネルが光電変換素子として働きます。すなわち、神経細胞が光を受け取り、電気信号に変換し、別の神経細胞に情報を伝えるようになります。例えば、動物モデルの脳にこの技術を応用すれば、特定の神経回路を光で活動させ、どのような行動が起こるのかを調べることで、神経活動と行動の因果関係を読み解くことができます。私は神経回路レベルでの応用が主であるこの技術をミクロレベルへと展開することにチャレンジしています。生物の基本的な構成単位である細胞は、細胞膜の中にミトコンドリア、小胞体、核などの様々な細胞内小器官を含んでいます。各細胞内小器官には固有の機能があり、協調して細胞全体の機能を生み出しています。細胞内の情報の担い手の1 つは、カルシウムイオンです。小胞体は、カルシウムイオンを蓄えるとともに、これを細胞質中に放出することで、細胞の機能を調節しています。私は、光感受性イオンチャネルを発現した小胞体が、光のオン・オフに応答して、カルシウム放出をオン・オフすることを見出しました。この方法を用いて、「小胞体からのCa2+ 放出を光で操作することによって、筋再生や収縮機能の獲得が促進される」という仮説を検証したいと考えています。このような研究から、光による筋細胞の分化制御を取り入れた細胞移植治療などの新しい技術が生み出されます。私は幼い頃から、昆虫に強い興味を抱いて生きてきました。昆虫の外見は種によって大きく違っています(例えば、チョウの翅模様は派手なものから地味なものまで千差万別です)。このような、「見た目」の多様性は古くから数多くの昆虫少年を魅了し、研究者によってそのメカニズムが調べられてきました。一方、昆虫が示す「行動」も種によって大きく異なります(例えば、私が実験に使っているショウジョウバエと呼ばれるハエの一種は、オスがメスに対してプレゼントを与える婚姻贈呈と呼ばれる行動を示します)。私はこのような「行動」の多様性に強く興味を惹かれます。行動は脳や神経の働きによって作られることから、様々な種で行動を生み出す神経機能を調べることで、行動の多様性を生み出すメカニズムを知ることができそうです。しかし、「見た目」の研究とは対照的に「行動」の多様性を生み出すメカニズムはこれまでほとんど調べられていません。生物学の研究に古くから使われている少数の「モデル生物」以外では行動に関わる神経機能を調べるのが難しかったことが研究の進展を阻んできたのです。ところが、近年ゲノム編集と呼ばれる技術が登場し、あらゆる生物種でその設計図であるゲノムを自由自在に改変することが可能になりつつあります。これを使えば、行動の多様性を生み出す神経メカニズムに迫れるのではないかと考え、私は前述の婚姻贈呈を示すショウジョウバエを使って実験をしました。その結果、特定の神経回路を強制的に活性化すると婚姻贈呈行動が誘発されることがわかりました。この結果は、特定の神経回路によって婚姻贈呈がプログラムされていることを示唆しており、行動の多様性を生み出すメカニズム研究の大きな第一歩であると考えています。今後も、研究教育院生として身につけた融合研究に対する考え方を生かして、行動の神経メカニズム研究に取り組んでいきたいです。「 オルガネラオプトジェネティクス-細胞内小器官の光操作-」「行動の多様性を生み出す神経メカニズム」五十嵐 敬幸生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻田中 良弥生命・環境領域博士研究教育院生3年生命科学研究科 生命機能科学専攻