ブックタイトルクロスオーバーNo.34

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概要

クロスオーバーNo.34

03学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.34山中伸弥先生がマウスのiPS細胞樹立を発表されてから10 年が経ち、最近では野生動物種を含め、様々な種での樹立が報告されています。ただ、一口に「?種でiPS 細胞が出来た」と言ってもその細胞の性質は様々です。特にnaive 型と呼ばれ、個体(=キメラ)や生殖細胞(=次世代)への寄与が認められる状態に安定して樹立出来ているのはマウス・ラットなどの一部のげっ歯類のみで、他のほとんどの種では、一定の多分化能は持ちつつも生殖細胞への寄与率は極めて低いprimed 型と呼ばれるタイプで樹立されてきます。多能性の観点だけでなく、扱いやすさや染色体の安定度などnaive 型には多数の利点があることから、単にiPS 細胞を樹立するだけでなく、naive 型のiPS 細胞を樹立するというのがiPS 細胞研究における1つの大きな目標となっています。私は家畜や野生動物からのnaive 型iPS 細胞作製を効率的に行う方法の確立を目指し研究を行っています。その中でも特に、多くの論文報告があるにも関わらず信頼性の確かな細胞株が未だに存在していないと言われるブタ由来のiPS 細胞の作製とその解析に注力しています。我々の研究グループでは、山中4 因子にLin28、 Nanog という2つの遺伝子を加えた6因子を、ウイルスベクターを用いて導入し、ブタ由来iPS 細胞を樹立しました。樹立した細胞株について次世代シークエンサーを用いて発現解析を行い、そのデータをSequence Read Archive にある2 種類のブタiPS 細胞株と比較しました。SRA にアップロードされていたこの株は両者とも山中4 因子のみを誘導に用いていましたので、導入因子の多寡が細胞の性質にどのような違いをもたらしているのかを調べると、我々の樹立した細胞株では、4 因子誘導株と比較していくつかのnaive 関連遺伝子の上昇が認められました。現在、多能性関連遺伝子の発現や遺伝子構造についてさらに詳細に解析しているところです。最終的に、ブタでなぜES 細胞やiPS 細胞の樹立が難しいのかという問題に迫ることを目標に研究を続けていきたいと思っています。私たちの研究室では、人工心臓をはじめとする様々な人工臓器の研究について幅広く行っています。その中でも私は「人工食道」を中心とした研究を行っています。私たちが研究を行っている「人工臓器」は、再生医療に基づくものではなく、例えば人工心臓であれば、人間の弱くなってしまった心臓のポンプ機能のみを代行する機械的なデバイスの研究を行っています。人間に限らず多くの動物において食道は、口から胃までを繋いでいるただの管ではなく、食物を能動的に運ぶ機能を有しています。食道癌を始めとする多くの食道疾患ではこの食物運搬機能が失われてしまい、食物が逆流することで術後に重篤な逆流性食道炎や誤嚥性肺炎になりうることが課題となっています。また進行した食道癌の治療手法の一つとして、食道の全摘出を行った後に、胃や小腸などの他の消化管を用いて再建する手術を行われる場合もあります。そこで食道疾患の患者のための能動的な食物運搬機能を有する人工食道ステントの研究開発を行っています。本研究デバイスでは、能動的な食物運搬機構の構築のために大型動物の食道を用いて生体材料力学的な試験を行い、設計指標となりうるいくつかのパラメータを取得し、またその食道の筋組織の構造的特徴から食道の運動機構を推察し、その機構を高度に模擬する機構を人工物で作成しました。そのデバイスは食道の管路断面の閉鎖構造をゴアテックスシートで作成し、アクチュエータとしてヘリックス形状のNi-Ti 系形状記憶合金線維を採用することで、体内に埋込可能な小型化と実用水準の駆動力を発生させることに成功しました。今後は、in vitro のMock 実験やin vivo での評価などを通してこのデバイスの性能評価を中心に行うことや、流体力学的数値シミュレーションをこのデバイスにも行いたいと考えています。「ブタiPS 細胞の多能性を維持するための遺伝子発現機構に関わる研究」「能動的食物運搬機能を有する人工食道ステントの開発研究」土内 憲一郎生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科応用生命科学専攻平 恭紀生命・環境領域博士研究教育院生3年医工学研究科 医工学専攻図 本研究で開発する完全埋込型能動式人工食道