ブックタイトルクロスオーバーNo.33

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概要

クロスオーバーNo.33

07学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.33私が初めて国際高等研究教育院(現:学際高等研究教育院)にお世話になったのは、修士研究教育院生からでした。その後、博士研究教育院生として引き続き採用して頂き、約2 年間の海外での研究生活を経て、現在、助教として学際科学フロンティア研究所に所属しています。足掛け約8 年、国際高等研究教育院、そして学際科学フロンティア研究所にお世話になっていることになります。その間、やはり意識せざるを得なかったことが、融合研究、学際研究とは一体何なのか、そして、どの様に進めていけばいいのかということでした。その点について、私の経験を少しご紹介できればと思います。私が専門としている研究対象は、地球や火星、月といった惑星や衛星になります。その内部の構造がどの様になっているのか、そしてどの様に形成されてきたのか、惑星の形成史や進化といったものを実験的に解明する研究を私は行っています。宇宙から飛来してくる隕石の詳細な研究や宇宙化学的な研究、さらには地震学的な観測などによって、地球をはじめとする地球型惑星は、主に、いわゆる岩石(ケイ酸塩鉱物)と鉄を主体とする金属で構成されていることが分かっています。海の中に入ると水圧がかかり、水深が深くなればなるほど水圧は高くなります。私たちの地面の下、地球や惑星の内部も同じように圧力が高く、数万気圧から数百万気圧(地上の数万倍から数百万倍の気圧)という超高圧環境となっております。また同時に数千度という超高温環境でもあります。この様な超高温高圧の極限環境では、鉱物や金属鉄は、我々が手にするようなものとは全く異なる形に変わっています。その一例が、ダイヤモンドです。ダイヤモンドは炭素で構成されていますが、我々が生活する常圧の世界では、鉛筆の芯として使われているグラファイトが炭素の安定な形状になります。同じ炭素でも、グラファイトと地球内部の高温高圧下で作り出されたダイヤモンドとでは、硬さなどの性質が大きく違ってきます。全く同じことが鉱物や金属鉄にも起こっています。私は、鉱物や金属鉄が惑星内部でどの様に変化しているのかを調べるために、実際に鉱物や金属鉄に惑星内部と同等の温度と圧力を加え、放射光X線や中性子線、そして電子顕微鏡等を駆使して、高温高圧下での鉱物や金属鉄の特性を調べる研究を行っています。この様な地球科学的な研究をしている私が、どの様な学際研究を行えるのだろうか。おそらく、学際研究を行う方法は様々あるだろうと思いますが、キーとなるのは“技術”だと私は考えています。自分の研究に他分野の“技術”を取り入れて発展させるのか、または、自分が持っている“技術”を新たな分野に適用させて開拓していくのか、大きく分けるとこの2 つに集約されると思います。そのことを考えた時に、私は、高温高圧発生の技術を活かせないだろうかと考えました。私が主に使用している大型プレス機は、数~数十万気圧、約2000℃という高温高圧力を数mmサイズの試料に負荷することができます。決して大きな試料サイズとは言えませんが、この高温高圧発生技術を地球惑星科学以外の分野、特に材料分野などに適用できれば、学際研究に発展させることが出来るのではないかと考えました。修士・博士研究教育院生の頃は、その様なことを漠然と考えていただけで具体的な研究には発展しませんでしたが、頭のどこかでは常に意識して過ごしていたと思います。その後、専門の地球科学の研究を深めながら、同時に材料分野への高圧力利用も模索し続け、現在の学際科学フロンティア研究所へ着任後、学際研の先生からの提案もあり、非晶質材料に対して高圧力を利用するという、私が考えていた融合的な研究に辿り着きました。この研究の詳細はここでは記述致しませんが、材料という観点から見た非晶質物質に対して、これまであまり適用されてこなかった高圧力を積極的に適用していくことで、新たな性質を持った非晶質物質を作り出せる可能性があります。この研究を支えているのは、やはり専門としている地球科学での研究で培った実験手法と技術だと思います。高温高圧発生技術だけではなく、高温高圧下での非晶質物質の構造・物性測定といった、専門分野の研究でしっかりと身に付けた技術を土台にすることで、私にとって異分野である材料科学分野でも独自性を出していけると考えております。もちろん、材料科学を専門としている方々との議論や共同研究、そして材料科学の勉強も欠かすことは出来ません。この研究は取り組み始めたばかりであり、ようやく形になりつつある状況ですので、学際研究にはまだ道半ばです。材料科学分野における非晶質材料に対して高圧力を利用していくという、新しい研究領域を確立し、学際研究まで発展させていきたいと考えています。最後になりますが、自分の専門分野の研究を深め、しっかりとした技術を身に付けながら、常に外の世界にもアンテナを向けておくことが、やはり大事なのだろうと常々感じています。あとは、機が熟すのを待っていれば、自然と共同研究に繋がり、融合研究・学際研究に発展していくのだろうと思います。月並みですが、まずは自分の得意とする部分をしっかり磨き上げることが、学際研究への一番の近道だと私は考えております。私も学際研究に繋げられるように、日々研究を行っていきたいと思います。研究教育院出身者の活躍「地球惑星科学から学際研究への拡がり」柴﨑 裕樹学際科学フロンティア研究所助教先端基礎科学領域平成20年度 修士研究教育院生平成21年度~平成23年度 博士研究教育院生