ブックタイトルクロスオーバーNo.33

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概要

クロスオーバーNo.33

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3306私は、分子レベルで設計された極微小なロボット「分子ロボット」の研究をしています。近年のナノ・バイオテクノロジーの進歩により、生体分子(DNA、たんぱく質など)を材料として様々な分子デバイス(センサ、アクチュエータ、プロセッサ)を構築できるようになりつつあります。これらの技術を基盤とし、分子化学や制御工学などの知識を用い分子デバイスをシステムとして組み上げることで、分子ロボットの構築が目指されています。分子ロボットの実現は、分子レベルからのモノづくりといった観点から、ナノテクノロジーやロボット工学における究極的な目標として近年国内外で高い注目を集めています。分子ロボットの将来的な応用では体内などの不確定要素が多い環境下で設計通りに動作することが求められます。しかし、これまでに報告されている分子ロボットのプロトタイプの運動はランダムなものであり、「信号を認識しアクチュエータを制御する」という一連のロボットシステムは実現できていませんでした。この問題は、分子デバイスをシステムとして統合する手法・方法論が未だ確立していないことに起因していました。私の研究では、細胞型分子ロボットを開発しその可制御な運動を実現することを目的としています。これまでの成果として、信号分子を認識し変形機能を制御可能な分子ロボットの開発に成功しました(図)。これは、分子デバイスの統合により、信号を認識し変形機能を制御した世界初の分子ロボットであり、分子デバイスのシステム化の基本的方法論を世界に先駆けて示したものです。この成果に関しては他言語に翻訳され、各国雑誌・webサイト等で紹介いただきました。このように、「分子ロボット」という多くの人にとって聞きなれない融合領域の学術分野が、今まさに世界中に広がりつつあります。本紹介文が分子ロボットという言葉を皆様に認知いただくきっかけになりましたら幸いです。マグネタイト等の市販磁石や、 ハードディスク (HDD) 等の磁気ディスクに代表されるように、現代社会において磁性は極めて重要な役割を果たしています。 これらの磁石の特徴として、一般的に無機物でできていて磁気相転移温度( 磁石になる温度) が室温よりも高く、また硬くて簡単には壊れないという点が挙げられます。その一方で1980 年代の後半から、分子で磁石を作る研究というものが活発に行われてきました。分子で磁石を作ろうとした場合、その相転移温度は数K から十数K と概して低く、また脆く柔らかいという性質があります。しかしながら“分子を用いる”という特性上、設計性が高く格子に柔軟性を持たせやすいという極めて有意義な特徴があります。このため通常の磁石では難しい“磁性以外の機能性( 多重機能性)発現” や“ ON/OFF切り替えが可能な磁石”といった、従来にはない機能性磁石を創り出すことができると考えられています。このような流れの中で、私は前者の機能性発現の方に興味を持って研究を行っています。その設計指針として、二次元磁気層の層間に分子を挿入するという手法を提案しました(図1)。これは図に示したように、常磁性スピンなどを持つ分子を層間に挿入して、あたかもサンドイッチの味を変えるかのように新規化合物を合成し、物性や機能性の発現、及びコントロールが可能なのではないかという発想です。すなわちこの手法は、物理的な視点から化合物の設計を行い、化学的な手法を持って実際の物質に落とし込むという境界領域ならではの取り組みと言えます。私はこれまでの研究で、実際に常磁性スピンを持つ分子が二次元磁気層に挿入可能であることを明らかとしました。最近では層内に挿入したスピンの大きさを変えることや種々の分子の導入について取り組み、その特性について明らかにしようと日々邁進しています。「分子ロボティクス~生体分子を材料にロボットを創る~」「電荷移動型集積体における分子挿入を利用した物性制御」佐藤 佑介デバイス・テクノロジー領域博士研究教育院生3年工学研究科 バイオロボティクス専攻福永 大樹先端基礎科学領域博士研究教育院生3年工学研究科 化学専攻図1.層間分子を変化させて新規化合物を創り出す。