ブックタイトルクロスオーバーNo.33

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概要

クロスオーバーNo.33

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3304現代の情報化社会ではスマートフォンなどの急激な需要増加に伴い、電子デバイスの高機能化、低消費電力化が求められています。近年、従来のシリコンに変わる新しい電子材料として炭素からなる二次元シート材料であるグラフェンが注目を集めています。グラフェンは優れた電気伝導特性をもつ一方で、電子デバイスのスイッチング素子としての動作が大きな課題でした。これに対し、私はナノメートル幅の一次元グラフェンであるグラフェンナノリボン(GNR)に注目しました。GNR は幅が狭くなることで半導体として振る舞うことが理論的に予測されています。一方で高品質なGNRを決まった位置に配列する技術はこれまで開発されていませんでした。私の所属研究室ではこれまで、 Ni を一次元構造に加工したNi ナノバー触媒に対してプラズマ化学気相堆積(CVD)法を行いることで、GNR を絶縁基板上へ直接合成する手法の開発に成功しています(図1a, b)[ 1]。本手法はGNRの完全な位置制御合成が可能であり、大面積集積化が可能です。また興味深いことに合成されたGNR はNi に対して架橋構造をもつことが明らかになっています。しかしながら本手法による架橋GNR の合成メカニズムは未解明であり、また合成効率が悪いという問題がありました。そこで私はこの合成手法に着目し、プラズマとNi 触媒の反応及び液体金属の動的な振る舞いに対する系統的な実験と、状態図や分子動力学シミュレーションによる理論的解析を組み合わせ、合成メカニズム解明に取り組んできました。その結果、 プラズマCVD における液体状Ni からGNR が析出合成する過程でNi ナノバー構造が不安定化し、GNR 下部の液体状Ni が毛細管現象によって拡散・消失するという全く新しい合成メカニズムを明らかにすることができました(図1c)。また合成メカニズムに基づいた合成条件の最適化によってウェハスケールで架橋GNRを集積化合成することに世界で初めて成功しました(図1d)[ 2]。これらを基に今後は高集積GNRを用いた高性能電子デバイスの創成に取り組んでいきます。[1] T. Kato and R. Hatakeyama, Nature Nanotechnology 7, (2012) 651.[2] H. Suzuki, T. Kaneko, Y. Shibuta, M. Ohno, Y. Maekawa and T. Kato,Nature Communications 7, (2016) 11797.散歩中のイヌやネコの動きを注意深く観察してみると、歩く時と走る時でその足の運び方が大きく異なることが分かります。実は四脚動物は、移動速度や身体的特徴(体重・足や首の長さなど)に応じて、足を運ぶパターン「歩容」を変化させ、高効率で適応的な移動様式を実現しています。しかしながら、四脚動物の歩容生成メカニズムは、生物学的にも明らかにされていません。本研究の目的は、四脚動物の適応的な振る舞いの背後にある優れた脚の協調メカニズムを明らかにすることのみならず、現実世界を生物のように生き生きと動き回るロボットの設計原理を構築することにあります。生物システムは非常に複雑なため、注目したい要素のみを抽出することは困難です。そこで本研究では、「構成論的アプローチ」を採用しています。これは、注目した生物の振る舞いを再現可能な人工物の構築を通して、その背後にあるメカニズムを理解するという方法論です。複雑な生物システムをそのまま扱う解析的な手法に比べて、構成論的な手法では、設計者が任意の要素をシステムに組み込むことで、最小限の要素から仮説の検証が可能であるという利点があります。具体的に本研究では、(1)生物の行動観察から作業仮説を立て、(2)仮説に基づく数理モデルを構築し、(3)シミュレーションやロボットを用いてモデルを検証します。これは、生物学・数学・ロボット工学の3 つの領域が融合して初めて可能となる方法論です。これまで本研究では、脚間の神経的な接続に注目していた従来研究と異なり、身体の力学的特性に注目した歩容生成メカニズムを提案し、シミュレーションやロボットのよる検証を進めてきました。驚くほど単純なルールにも関わらず、ロボットの身体的特徴や移動速度に応じた様々な歩容の再現に成功しています。極限まで余計な要素を排したシンプルなモデルだからこそ、メカニズムの本質に迫ることができると期待しています。「プラズマCVD法によるグラフェンナノリボン集積デバイスの創成」「融合領域的アプローチから切り拓く四脚動物の歩容発現機序」鈴木 弘朗物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年工学研究科 電子工学専攻福原 洸生命・環境領域博士研究教育院生3年工学研究科 電気エネルギーシステム専攻研究教育院生の研究紹介図1:(a) プラズマCVD法によるNi ナノバーからの架橋GNR合成の模式図。( b) Niナノバーと合成された架橋GNRの電子顕微鏡像。( C)Ni-C 状態図上での冷却過程における状態変化と架橋GNR形成過程の模式図、( d) ウェハスケールで合成された高集積架橋GNRの光学及び電子顕微鏡像。