ブックタイトルクロスオーバーNo.32

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概要

クロスオーバーNo.32

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3206私は水和クラスターという分子集合体の光反応についてのレーザー分光研究を行っています。水和クラスターとはある分子が数個の水分子に取り囲まれたものです。水和クラスターは、分子同士が複雑に相互作用している水溶液や氷からその一部を取り出し、単純化したモデルとみなすことができ、溶液等ではわからない分子間の構造の詳細等を明らかにできます。これまでに私は炭素原子(C原子)と水素原子(H 原子)間の化学結合であるCH 結合が、正の電荷を帯びた状態における反応性を調べる研究を行ってきました。具体的には、C とH のみで構成されるペンタン分子(C5H12)の水和クラスター正イオンの分光研究です。CH 結合は有機物に非常に多く含まれる化学結合です。正電荷を帯びた状態のCH 結合は有機化合物や化学反応、光反応中に多く現れ、正電荷を帯びたCH 結合の性質はこれらの有機物の構造や反応の理解や制御を目指す上で重要な情報となります。私は、正イオン状態のペンタン分子に対して、1 個、2 個、3 個と、付加する水分子の数を変えて赤外分光測定を行い、正イオン状態のペンタンから水素原子イオン(プロトン)の移動反応が起こるのに必要な水分子の数を調べました。目的の水和クラスターに対し、観測した赤外スペクトルと、量子化学計算結果とを比較することで反応の有無を決定できます。図に得られた赤外スペクトルを示します。水分子の数が増えるごとに、低波数領域(スペクトルの左側)のピーク強度が増大していることが分かります。この結果は、水分子が2 個以上でペンタン正イオンから水分子へのプロトン移動が起こることを示しています。過去の研究から、水分子との反応性が高い塩酸分子でも、プロトン移動のために少なくとも3 つ以上の水分子が必要であることが報告されています。本研究により正電荷を帯びたCH 結合が非常に高い反応性を持つことが分かりました。質量が太陽の8 倍以上ある恒星は大質量星と呼ばれ、一生の最後に超新星爆発を起こします。その中でも特に質量の大きな恒星は、超新星爆発を起こす前に、ほとんどが水素から構成されている外層を失い、核融合の生成物であるヘリウム、窒素、炭素などが主な構成要素である中心核が表面にむき出しになります。このような恒星は、発見者の名前から Wolf-Rayet(WR)星と呼ばれています。WR 星の形成には外層を失う「質量放出」が非常に重要です。従来、この質量放出の機構は強い放射圧によって駆動される恒星風であると考えられてきました。しかしながら、近年、理論と観測の双方の進展により、放射圧により生み出される質量放出の量は従来考えられていたものよりも数倍低いことがわかってきました。この質量放出の量を考慮に入れて、大質量星の進化の計算を行うと、非常に大質量の恒星を除き、WR 星には進化できません。ところが、非常に大質量の恒星が WR 星が進化するだけでは形成されるWR 数が少なすぎて、観測される大質量の主系列星と WR 星の個数の比を再現することができません。そのため、放射圧よりも強い質量放出を引き起こす機構が必要とされています。この質量放出を引き起こす機構として考えられているものの一つが、近接連星系での重力相互作用による質量のはぎ取りです。この機構が強い質量放出を引き起こしているとすると、WR 星はほとんどが近接連星であるはずです。これを検証するために、私は WR 星が食連星であるかどうかを調べています。食とは連星の一方の恒星が他方の恒星を隠す現象であり、このとき連星系は暗く見えるので、二つの恒星を分離できなくても連星であることがわかります。したがって、WR 星の明るさを観測し続けその変化を調べることにより、WR 星が連星であるかどうかを判別することができます。また、暗くなる周期を調べることによって、近接連星であるかを知ることができます。現在、のべ 7 ヶ月にわたって南アフリカで行った観測のデータの解析を行い、WR 星の近接連星の割合を調べています。「ペンタン正イオン水和クラスターの赤外分光研究」「Wolf-Rayet 星形成の謎を探る」遠藤 寛也先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 化学専攻小野里 宏樹先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 天文学専攻図 食連星の位置関係と明るさの変化図 実測の赤外スペクトルと理論計算で得られた最安定構造