ブックタイトルクロスオーバーNo.32

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概要

クロスオーバーNo.32

05学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.32累計導入量の9 割以上を占めるシリコン(Si)太陽電池のエネルギー変換効率の最高値は26.3% であり、理論限界効率である29% に近づいています。Si太陽電池の理論限界効率は、材料固有のバンドギャップに起因し、損失の主因は熱損失と透過損失です(図1 ?)。さらなる変換効率向上のために、中間バンド型太陽電池が提案されています。中間バンド型太陽電池は、母体材料のバンドギャップによる光吸収に加えて、中間バンドを介した二段階の光吸収により、透過損失を低減でき、その結果、60%以上の高い変換効率を得ると理論的に予測されています (図1 ?)。そのなかで私は、Si太陽電池にゲルマニウム( Ge) 量子ドット( QD) を埋め込んだGe QD中間バンド型太陽電池の実現を目指しています。中間バンドの形成には、直径10nm 程度かつ密度1011cm-2 程度のGe QD の形成が必要です。しかし、Si 基板上に自己組織的に形成されるGe QDのサイズは直径50-100nm と大きく、密度も1010cm-2 程度と低いです。QD のサイズは、基板材料とQD 材料の格子定数差に依存しており、格子不整合度の制御が小サイズ化の鍵になります。そこで、私はGeとSiよりも格子定数の短いカーボン( C)を媒介させたGe QD の形成について提案しました。1原子層以下の微量なCをSi表面で熱反応させ、Si に比べ結合距離が短いC-Si 結合を部分的に形成し、露出したSi 領域には伸長歪みを印加しました。Ge に対する格子不整合度がC-Si 結合領域では大きくなり、Si露出面では小さくなります( 図2)。その結果、Ge 原子が格子不整合度の大きいC-Si 結合を避け、格子不整合度が小さいSi 露出面で優先的に成長することで、平均直径10.8 nm、密度2 ×1011cm-2 のQD の形成に成功しました( 図3)。 本研究成果は、 太陽電池に限らず、 Ge QD発光素子や熱電変換素子などの広範な分野での応用が期待されてます。 現在は、 QD層での光吸収量の増大に向け、 積層方向にQD を増加させたGe QD の積層構造の形成について研究しております。電子は電荷に加えて、物質の磁性の起源となるスピンを有しています。スピントロニクスとは、これら2 つの性質の自由度を同時に利用することで、新しい物理現象の発見や高機能デバイスの開発を目指す分野です。従来は強磁性材料を用いたスピントロニクスが主流だったのですが、最近になって反強磁性体材料を用いたスピントロニクスが注目され始めています。反強磁性体とは物質内部でスピンが半並行に整列し、マクロな磁化を有さない材料です。強磁性体にはない特徴として、?磁気秩序が外部磁界に対して堅牢である点、?自身の外部に漏れ磁界を生じない点、?スピン・ダイナミクスが桁違いに早い点が挙げられます。私は特に?の高速なスピン・ダイナミクスに着目し、超高速反強磁性体スピントロニクス・デバイスの実現を目指して研究を行っています。反強磁性体を用いたスピントロニクス・デバイスの動作原理を実証するために、数多くある反強磁性体の中でもCuMnAs に着目しました。CuMnAs は単結晶薄膜の成長が可能であり、半導体的性質を示します。また、これまでに多く研究されてきたGaAs等の非磁性半導体や( Ga、 Mn)As 等の強磁性半導体と良く格子整合します。半導体的性質を有することから、磁気特性の電気的な制御が可能であることが期待されます。CuMnAs の結晶成長は分子線エピタキシ法により行います。超高真空チャンバ内に基盤を設置し、固体ソースを加熱することで発生させた分子線を照射し、原子レベルで平坦な界面を維持した結晶成長が可能です。また反射高速電子線回折により成長界面のその場観察が可能です。図に作製したCuMnAs の磁化率の温度依存性を示します。温度上昇に伴い磁化率が大きくなっており、CuMnAs が反強磁性体であることを示しています。現在は磁気特性の電気的な制御を目指し、素子化等の準備を進めています。「シリコン基板上のカーボン媒介ゲルマニウム量子ドットの形成」「反強磁性半導体スピントロニクス」伊藤 友樹デバイス・テクノロジー領域博士研究教育院生3年工学研究科電子工学専攻都澤 章平物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年工学研究科 電子工学専攻図2 C-Si結合を利用したGe QD形成の概念図図3 小サイズGe QDの表面形状とヒストグラム図1 ?従来のSi 太陽電池と?中間バンド型太陽電池の吸収波長と光吸収機構