ブックタイトルクロスオーバーNo.32

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概要

クロスオーバーNo.32

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.3202第7回 日本学術振興会 育志賞受賞の喜び新規な組織制御原理による超マグネシウム合金の開発-研究背景-科学技術の急速な発展により、私たちの暮らす社会は非常に便利になりました。こうした中で、近年では生活の質の向上が求められるようになってきています。この要求に対する解決策の一つとして様々な機器の軽量化が挙げられます。例えば、自動車や航空機といった輸送機器の軽量化は低燃費化につながり、環境問題の改善をもたらします。また、少子高齢化が急速に進む中での福祉機器の軽量化は、福祉の現場での人手不足問題にとってプラスの効果をもたらすと考えられます。以上の時代背景の下、実用金属上最も軽量であるマグネシウム(Mg)は次世代構造材料として期待されてきました。しかしながら、室温における加工性に乏しく、現状その応用先は限られています。そこで、本研究では、この欠点を克服するとともに既存Mg 合金では達成できなかった高強度かつ高機能を有する超マグネシウム合金の開発を目指しました。-研究成果および今後の展望-私は、博士後期課程に進学した平成26 年度より学際高等研究教育院の博士研究教育院生として本研究に取り組んできました。私の所属する研究室では以前、実用Mg 合金が低延性を示す破壊メカニズムの解明に取り組んでおり、先に触れましたMg の加工性の悪さは、そもそもMgの持つ六方稠密(hcp)構造の高い異方性に起因していることが明らかとなっていました。そこで、私たちは等方変形が可能である体心立方(bcc)構造の利用を着想し、合金状態図の観点からMgにスカンジウム( Sc) を加えたMg-Sc合金に注目しました。また、Mg-Sc合金においては、bcc 構造が得られることの他にhcp/bcc 相変態による組織制御が可能である可能性が大いにあり、これにより、チタン(Ti)合金のような熱処理による高強度化、更にはマルテンサイト変態による形状記憶特性等、これまでのMg 合金では考えられなかった新機能発現も期待できると考えました。そこで、実際にMg-Sc 合金を作製し、様々な温度下で熱処理を施した結果、hcp/bcc 相変態による多彩な組織制御を実現することができました。これにより、従来のMg 合金を凌駕する、強度と延性のバランスに優れた機械的特性を得ることに成功しました。(例えば、Y. Ogawaet al., Materials Science and Engineering: A 670( 2016)335) 更に、bcc 構造を有するMg-Sc 合金がTi 合金と同様にマルテンサイト変態による形状記憶特性を示すことを世界で初めて見出すことができました(Y. Ogawa et al.,Science 353( 2016) 368)。以上のようなMg合金の相変態制御はこれまで報告例がありません。よって、相変態を利用した組織制御によるMg 合金の高強度・高延性化かつ形状記憶特性発現は工業面だけでなく、学術面においても大きなインパクトを与え、Mg 合金の新たな可能性を開拓することができたと考えております。今後は、博士研究教育院生としての融合研究を通して学んだ姿勢や視点を生かし、宇宙分野や医療分野といった幅広い領域へ応用を目指したいと考えています。-第7回日本学術振興会育志賞を受賞して-今回、第7 回日本学術振興会育志賞を受賞することができましたのは、日々大変熱心にご指導いただきました先生方をはじめ、本研究に関わってくださった方々、本研究を援助してくださった学際高等研究教育院や日本学術振興会、また夢を追い続けることを許し見守ってくれた家族等、皆様の温かいお力添えの賜物であり、皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。平成29 年3 月8 日には、秋篠宮同妃両殿下ご臨席のもと授賞式が執り行われました。当初、受賞内定のお知らせを頂いた際にはあまり実感がわきませんでしたが、授賞式に出席し大変名誉ある賞を頂けたことを再認識いたしました。本賞は“我が国の学術研究の発展に寄与することが期待される優秀な大学院博士後期課程学生を顕彰することで、その勉学及び研究意欲を高め若手研究者の養成を図る”ことを目的としたものです。この度このような賞を頂けましたことは身に余る光栄ですが、先の目的に沿えるよう、ここを出発点として今一度気を引き締め、より一層研究に邁進していく所存です。小川 由希子学際高等研究教育院博士研究教育院生3年物質材料・エネルギー領域基盤工学研究科知能デバイス材料学専攻研究教育院生の活躍Fig. ? 従来Mg合金との機械特性の比較、?、?Mg-Sc合金における形状記憶特性の様子(? 低温下での変形後、?温度上昇による形状回復後)