ブックタイトルクロスオーバーNo.31

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概要

クロスオーバーNo.31

学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所東北大学クロスオーバーNo.31菅野佑介デバイス・テクノロジー領域博士研究教育院生3年環境科学研究科環境科学専攻「バイオ計測技術の発展を志向した電気化学デバイスの創出」バイオ計測により、細胞などの微小構造の観察や、生物によって引き起こされる生命現象を捉える事が可能です。そのため、生命科学の進歩においてバイオ計測技術は重要な役割を担います。その中で私は、電気化学に基づくバイオ計測デバイスの開発に取り組んでいます。化学反応を電気的シグナルに置き換える電気化学的手法は、非侵襲かつ定量的なバイオアッセイに適しています。さらに、センサとして機能する電極を多数配列する事で、生体試料のハイスループット解析やイメージング評価への応用が可能となります。しかし、単純に電極を配列した従来のデバイスでは、センサ部分以外(配線等)の電極面積が膨大になり、センサの集積化に限りがありました。そこで、二種類の新原理のデバイスを提案し、センサの高集積化を主に電気化学デバイスの様々な課題の解決にアプローチしています。一つ目は、シグナル増幅型多点デバイスです。電極を格子状に立体交差させ、その格子点の電極間で局所的に酸化還元反応を繰り返す(シグナル増幅現象を誘導する)事で各格子点をセンサとして用いました。本原理により、2n本の電極でn 2個のセンサを組み込む事が可能です。さらに、各電極センサをナノ空間内に組み込みシグナル増幅現象を誘導する事で、胚性幹細胞塊の高感度分化スクリーニングを達成しました(図1)。二つ目は、集積回路(LSI)型デバイスです。膨大なスイッチング素子を有するLSI上に配列電極を作製する事で、多数のセンサを微小面積に組み込めます。作製したLSI型デバイスを用いて、細胞の呼吸・酵素活性やエキソサイトーシス等を対象に、高解像度かつ高時間分解能なバイオイメージングを達成しました。現在は、上記の新原理を踏襲しつつ、測定のさらなる効率化や生命現象の新たな相関性の探索を実現する、多項目同時計測システムの創出に日々励んでいます。図1高感度バイオアッセイに向けたシグナル増幅型多点デバイスの模式図(Lab Chip, 2015, 15, 4372)平井研一郎先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科地球物理学専攻「磁気回転不安定性による乱流駆動プロセスの高精度計算機実験」我々の住む太陽系の形成段階やブラックホールなどのコンパクト星の周りには、降着円盤と呼ばれる電離ガスの円盤が存在します。降着円盤を貫くように磁場が存在する時、円盤内で励起される磁気回転不安定性(Magneto-Rotational Instability;MRI)が円盤ガスを磁気乱流状態にし、ガスを中心星へと降着させると考えられています。90年代中頃以降、コンピュータの発展と共にMRIが駆動する磁気乱流について多くのシミュレーションが行われ、磁気乱流の強さが円盤公転周期のスケールで増減を繰り返すことが示されました。一方で、計算の解像度や手法といった細かな構造にのみ影響する要素を変更すると乱流の強さが異なるという結果が報告されています。この事は、MRIによる乱流駆動過程において細かな構造が重要な役割を果たすことを示唆しています。本研究では、工学研究科の河合宗司准教授が近年提唱した乱流を微細に解像することができる高精度磁気流体シミュレーション手法を用いて、降着円盤での数値実験を行うためのコードを新たに開発し、MRIの乱流駆動過程における小スケール流の役割を調べてきました。計算の結果、円盤中の応力場が変化して?層状の流れ構造が作られ、その後二次的な不安定性を励起し複数の渦を作ること、渦同士の相互作用によって層状の流れが局所的に薄く速い流れへと変化すること?、さらにそこが急速に不安定化することで層状構造が崩れて乱流へと遷移すること?が判明しました。この結果から、MRIが乱流を駆動する過程において、流れの小スケール化による層状構造の破壊が重要な役割を果たすことが判明しました。降着円盤内乱流の微細構造は初期太陽系における惑星形成過程やブラックホール周辺での粒子加速機構にも関連することが指摘されていますが、観測的実証は未だ困難であることから、本研究で開発した高精度コードとそのシミュレーション結果が観測と理論の橋渡しとなることが期待されます。03