ブックタイトルクロスオーバー No.30

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概要

クロスオーバー No.30

学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所東北大学クロスオーバーNo.30菊田里美生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科保健学専攻「パーキンソン病の重篤度をMRIで可視化する」パーキンソン病(PD)は世界で2番目に患者数が多い難治性の脳・神経疾患です。このPDは、大脳基底核の黒質緻密部という場所に存在するドーパミンニューロンが脱落することにより、その投射先の大脳基底核線条体におけるドーパミン量が減少し、発症に至るといわれています。しかし、そのドーパミンの減少が、脳のどの領域にどのような神経活動の変化を引き起こし、その結果、どのような症状を呈するようになるのかは諸説あり、はっきりしていませんでした。そこで私は、MRIによる神経活動計測法である、活動依存性マンガン造影MRI(Activation-Induced Manganeseenhanced MRI; AIM-MRI)法に着目しました。AIM-MRIは2価の陽イオンであるMn 2+が神経活動に伴い開くCa 2+チャネルを通り、細胞内に流入・蓄積すること(図1)と、また、Mn 2+が常磁性体であるため、Mn 2+が存在することによりMRIで計測できる水素原子核(H +)の縦緩和時間(T 1)が短縮されることを利用したものです。しかし、これまで、神経活動に伴いMn 2+が細胞内に蓄積することを示した報告はありませんでした。そこで私はまず、Mn 2+が神経活動に伴い、細胞内に蓄積することを明らかにし、さらに、絶対値であるT 1を計測することでMn 2+濃度を定量的に計測できるという原理を利用して、AIM-MRIを定量的な計測法として発展させました(quantitative AIM-MRI; qAIM-MRI)。その上で、PDモデルマウスに対して、qAIM-MRIによる定量的な全脳神経活動計測を行いました。その結果、PDにより神経活動が変化している脳の領域を同定しました(図2)。さらに、生化学的な病態の重篤度の指標と、qAIM-MRIで得られた神経活動の指標であるT 1との相関解析を行った結果、PDの症状の重さ(重篤度)に関連して神経活動が変化している脳の領域を明らかにしました。本研究成果は、PD発症メカニズムの解明や早期診断法開発に貢献すると期待されます。加えてqAIM-MRIは他の脳・神経疾患における神経活動の変化の計測や、学習前後の脳活動の変化の計測など、脳の仕組みの解明を目指した研究にも応用されることが期待されます。図1 Mn 2+は電位依存性Ca 2+チャネルを通り細胞内へ流入し、細胞内に蓄積する。図2パーキンソン病においてqAIM-MRIにより有意に神経活動が亢進していた領域を色づけして、マウス脳のMRI矢状断画像に重ねて表示している。線条体及び視床に特に変化の大きな領域が見られる。倉嶋晃士先端基礎科学領域博士研究教育院生3年工学研究科応用物理学専攻「銅酸化物超伝導体における強磁性/反強磁性ゆらぎと超伝導の関連」超伝導は物質の電気抵抗がゼロになる現象です。超伝導は熱損失のない電線や強磁場を発生する磁石のコイルに応用され、2027年に開業予定であるリニア新幹線にも使われる予定です。これらに利用されている超伝導材料は、非常に低い温度まで冷やさないと超伝導を示さないため、高価な液体ヘリウムなどを用いて冷却しなければ使えません。そのため、より高い温度で超伝導を示す物質の発見が望まれています。私は、常圧下で最も高い温度(135ケルビン)で超伝導を示す銅酸化物において、その高温超伝導の発現メカニズムの解明を目指して研究を行っています。二次元的な結晶構造を持つ銅酸化物では、図1の挿入図のような、銅と酸素から成る二次元面(CuO 2面)が電気伝導を担っています。キャリアがない母物質(Cuあたりのホール濃度がゼロ)では、Cu 2+の磁気モーメントが反強磁性長距離秩序を示します。CuO 2面にホールキャリアがドープされると、図1に示すように反強磁性長距離秩序は壊れますが、反強磁性ゆらぎが残っていて、それが低温で超伝導を誘起すると考えられてきました。しかし、ホールがドープされ過ぎると超伝導は消失します。この超伝導の消失は、単純に反強磁性ゆらぎの減衰によるものであると思われていましたが、近年、超伝導が消失するほどホール濃度が高い領域においても、反強磁性ゆらぎが残っていることが明らかになりました。そのため、反強磁性ゆらぎが超伝導と直接的に関連しているかどうかは分かりません。そのような中で、最近、高ホール濃度領域には強磁性ゆらぎが存在する可能性があるとの理論的指摘がありました。もし強磁性ゆらぎが存在すれば、反強磁性ゆらぎや超伝導との関連を調べることで、高温超伝導の発現メカニズムの解明に近づけるかもしれません。そこで、私は、ビスマス系やランタン系銅酸化物における磁化や電気抵抗率、比熱、ミュオンスピン緩和などの測定を行いました。その結果、銅酸化物の高ホール濃度領域には強磁性ゆらぎが普遍的に存在することが実験的に明らかになりました。今後は、銅酸化物における強磁性/反強磁性ゆらぎの相互関係を明らかにし、高温超伝導の発現メカニズムにさらに迫っていきたいと考えています。図1.銅酸化物高温超伝導体の物性相図。挿入図は反強磁性秩序を示すCuO 2面の模式図。05